SPECIAL TALK Vol.35

~失敗するからこそ改良点を考え抜く~

未知の業種に進出して、失敗と苦労を重ねた時代

金丸:時流の変化にうまく乗りH.I.S.が成功したあとは、ホテルを開業されましたね。

澤田:第1号は、オーストラリアのゴールドコースト。結構大変だったけど、このホテルは、今なお現役です。

金丸:そして96年には、スカイマークエアラインズ(現スカイマーク)を設立し、航空事業にも進出されました。

澤田:国内線への新規参入は35年ぶりだったんですが、今思えば、ちょっと調子に乗っていましたね。スカイマークはなかなか辛かった。

金丸:当時は今以上に規制も厳しかったし、大変だったでしょう。

澤田:最初の数年は、月に2〜3億円の赤字でしたよ。

金丸:3億ですか!?

澤田:私自身が航空業界の特殊性を知らなすぎました。スカイマークが参入したのをきっかけに、どんどん新しい航空会社が誕生したし、大手航空会社が割引運賃を見直して、一気に競争が激しくなった。

金丸:規制がある分野を、こじ開けようとするのは相当大変ですよね。

澤田:既得権益がありますからね。そこに入っていくというのは、覚悟が必要です。

金丸:でもスカイマークの参入が航空業界に風穴を開け、今やLCCは当たり前という時代になりました。澤田さん、時代を先取りしすぎましたね。先見の明がありすぎた。

澤田:この頃、証券業界でも手痛い失敗を経験したんです。エイチ・エス証券がシステムの不具合から行政処分を受け、営業停止に追い込まれまして。

金丸:そもそも、どうして証券を始めたんですか?

澤田:旧山一證券系の協立証券の再建を頼まれたから。金融業も規制が厳しい業界だけど、私には金融や証券に関する知識がなかった。失敗するのも当然です。

金丸:頼まれて引き受けたら、とんでもない結果に……。営業停止後は、どうしたんですか?

澤田:しかたないから3ヵ月、旅行に出ました(笑)。

金丸:そこで旅行って、さすがは冒険家(笑)。

澤田:会社にやって来た証券検査官が「いつ帰ってくるんだ!」と怒っちゃって。社員が「3ヵ月ぐらい帰ってきません」って答えたら、火に油を注ぐことに。

金丸:そりゃあ、怒るでしょう。

澤田:でも営業停止になってしまった以上、私が会社にいたとしても、できることは本当になかったんです。営業停止になると、銀行がお金を止めてしまう。これは血液が止まっちゃうようなものです。だからアメリカ大陸とアフリカ大陸を回って、イグアス、ヴィクトリア、ナイアガラの三大瀑布を全部見てきたんだけど、その間も必ずホテルにファックスが届いて、「危ない」「お金がそろそろなくなってきた」っていう連絡が。

金丸:それには、なんと答えたんですか?

澤田:「頑張ってくれ」と言うしかない。

金丸:旅行から帰ってきたとき、会社はどうなっていたんですか?

澤田:社員が半分ぐらい辞めていました。

金丸:そりゃそうだ(笑)。でもその後、エイチ・エス証券は持ち直したんですよね。残った人は、ずいぶん頑張ったんですね。

澤田:よく頑張ってくれたと思います。私もこの失敗で、たくさんのことを学びました。

苦い失敗を糧にして、事業再生を次々手がける

金丸:立て続けに大変な思いをされながら、その後も新しいチャレンジをされていますね。

澤田:そうですね。2003年には、モンゴルの国立銀行であるハーン銀行を買収しました。「日本からも投資してほしい」とお願いされたので。

金丸:また金融系ですけど、大丈夫だったんですか?

澤田:エイチ・エス証券での失敗があったので、今度は金融のプロを呼び寄せました。

金丸:素人の自分が先頭に立っちゃだめだと。

澤田:そう。世界一のヘッドハンティング会社に頼んで、世界で勝ち抜いてきたバンカーに来てもらいましたよ。まあ、世界一だけにめちゃくちゃお金がかかったんですが(笑)。彼には「モンゴルでトップの銀行にする」という目標と、「アンダー・ザ・テーブルは絶対にやめてくれ」ということだけを伝えて、あとは任せました。

金丸:任せ方がまた豪快だ。

澤田:でもさすがはトップバンカー。5年で実現させましたね。その後手がけた事業は、ほとんどが再生ビジネスです。熊本県のバス会社の九州産交グループや神戸のヨットハーバー、2010年には長崎のハウステンボス。

金丸:私、あのときニュースを見て、「澤田さん、どれだけ精力的なんだ。よくやるな」と思いましたよ。

澤田:みんなからそう言われました。ハウステンボスは今でこそ年間300万人が来場するまでに回復しましたが、最初は失敗ばかりで。

金丸:たとえばどんな失敗を?

澤田:お客さんを増やすために、はじめ入園料を下げてみたんです。H.I.S.は格安航空券を武器にお客様を獲得してきたので。でも全然増えなかった。

金丸:原因は別にあった。

澤田:答えは単純で、テーマパークなのに楽しくなさそうだったから。夜は暗いし、音楽はないし、店舗やアトラクションも閉まっているもの
が多くて。

金丸:テーマパークなのに…。

澤田:むしろ怖いんですよ(笑)。だから人が集まるイベントをやって、この空気を変えなきゃいけないと思いました。

金丸:でも一度イメージができてしまうと、そう簡単に人は集まらないでしょう。

澤田:ハウステンボスがある佐世保市の隣に、有田焼で有名な佐賀県有田町があります。有田の陶器市って、1週間にどれくらいお客さんが来るかご存じですか?

金丸:いや、想像もつきません。何十万人規模ですか?

澤田:いや、100万人以上です。

金丸:そんなに! すごい数ですね。

澤田:ということで、うちも陶器市やることにしたんです。30万人ぐらい集まるんじゃないかと思って。

金丸:結果はどうでした?

澤田:全然ダメ(笑)。有田は大規模だし歴史もある。しかも入園料なんて取らない。「わざわざお金を払ってまで、陶器市に来る人はいませんよ」ってスタッフに言われました(笑)。

【SPECIAL TALK】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo