屈辱の二次会
ー翌日ー
−うっ...ま、眩しい...
東京ミッドタウンにある『ニルヴァーナ ニューヨーク』。
中に足を踏み入れた瞬間、亜希はそこに集う女たちが放つ若いエネルギーに立ちくらみ、思わず額に手を当てた。
今夜は、亜希がバイヤーの仕事を始める前、2年前まで勤めていた広告代理店の後輩・マミちゃん(26歳)の結婚式二次会に招待されている。
若い子が多いことはわかっていたから、こちらは大人の色気で勝負だと、背中がぱっくり開いたブラックドレスにルブタンの赤いソールを効かせて乗り込んでみたものの、初っ端から挫けそうになる。
昨日、偶然にも目にしてしまった元カレ・貴志の結婚報告で受けたダメージが想像以上に深いのかもしれない。
昔の男に執着する気はないが、それでも先に結婚されてしまうとモヤモヤする。自分に彼氏がいなければ、なおさら。
この気持ちは、30代独身女性ならきっと共感していただけるはずである。
すぐに知った顔を見つけることができず壁際に佇んでいると、また、貴志がタグ付けされていたツーショット写真が頭に浮かんでくるのだった。
−貴志の奥さん、平凡だったな。
ちょっとばかり私情が挟まっていることは否めないが、貴志の妻となったらしい女性は、正直言って「普通」レベルの女だった。
眉下で切りそろえられた前髪も野暮ったいし、フィット&フレアの花柄ワンピースに合わせたカーディガンが絶妙にダサかった。
亜希だって自身が絶世の美女であるとは思っていない。しかし客観的に判断しても、彼女よりは自分の方が綺麗だと言い切れる。
...年齢は、亜希より若そうではあったが。
頃合いをみて新婦・マミちゃんに「おめでとう」と祝辞を述べに言った後、改めて会場を見渡してみる。
新郎はメガバンク勤務の30歳。その同僚が多く参加しているはずだった。
−若いだけの女に、怖気付いている場合じゃない。
近頃は食事会のお誘いが目に見えて減った。以前はたくさんの予定に追われていたのに、今では自分から追いかけなければ予定が入らない。
そんな状況において、結婚式二次会は非常に貴重な出会いのチャンスである。
自分に喝を入れるよう背筋を伸ばし、赤いリップをひいた唇の口角を上げる。
ボブヘアをかきあげ、「どうぞ、どこからでも声をかけてください」と言わんばかりの隙も作った。
しかしどういうわけか、10分経っても20分経っても、亜希に近寄る男の影は現れないのであった。
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