注文の多い女たち Vol.1

注文の多い女たち: 32歳の美女、並の25歳に惨敗。その理由は若さだけなのか?

「最近、良い出会いがない」

未婚・美人の女性に限って、口を揃えて言う言葉である。

しかしよくよく話を聞いてみると、その真意はこうだ。

「理想通りの、素敵な男性がいない」

経験値が高いゆえに、自分のことは棚に上げて「あれはダメ」「そこがイヤ」と、男性に注文ばかりをつける女たち。

これはそんな自らの首を絞めている、全東京ガールに捧げる物語である。


結婚も彼も、捨てても惜しくなかった。


「亜希。俺、海外に行くことになった」

あれは確か、2012年の11月。風が急に冷たく感じられた夜だった。

移転オープンしたばかりの表参道『CICADA』で、当時付き合っていた同い年の彼・貴志(たかし)が、わざとらしく咳払いなんかした後で、そう言ったのはー。

神谷町にある自宅マンションのベッドの上。華金を楽しむ投稿が続く中、Facebookタイムラインに突如現れた、貴志の結婚報告。その画面を呆然と見つめながら、亜希は静かに大きく息を吐いた。

もう、5年も経つのか−。

不思議なことに、今でも細部まで鮮明に思い出せるのだった。

薄暗い照明の下でも隠しきれない、彼の高揚した顔も、少し震えた声も、反応を伺うように亜希を覗き込んだ瞳も。

「...付いてきてくれる?」

そう聞かれたとき、即答すべきだったのだろうか。

亜希が言うべき言葉は「場所はどこ?」ではなかったのかもしれない。

もしくはせめて、駐在先がニューヨークとかロンドンとか、せめてシンガポールとかだったら...。

「カタールだよ」

しかし貴志の口から発せられたのは、馴染みのない国名だった。世界地図のどこにあるのか咄嗟には指差すこともできない国。

−行きたくない。

その場では一応「...考えさせて」と言ったものの、それが本心だった。

5年前、まだ27歳だった亜希の目に東京はまだ眩しく輝いていて、その宝石を捨ててまで欲しいとは思えなかったのだ。

結婚も、そして...貴志も。

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