何度目の偶然から、人はそれを「運命」と呼ぶのだろうかー。
◆
和哉は、23歳の時に大失恋を経験した。
振られたわけではない。
叶わぬ恋を追い続けて、その恋の終わりが決定的になる出来事が起こった、と言った方が正しいのかもしれない。
子どもの頃からずっと憧れていた、3歳年上の女性・麗香が、結婚したのだ。
和哉の幼馴染である翔太の従姉が、麗香だった。
仲間たちの中で一番マイペースでシャイな性格の和哉は、麗香への想いを胸の奥でずっと温めていた。
「お嬢様」という言葉がぴったりな、可憐で少しわがままな女の子。
麗香が中学生の時は、複雑な女同士の人間関係の愚痴を聞き、麗香が高校生になると、失恋して泣く彼女を励ました。
互いに大学生になったら、お酒で気分が悪くなったと言う麗香を迎えに行ったりもした。
麗香に頼られれば何にでも応えていた。
そんな麗香は、26歳になった時に親の勧める相手とあっさり結婚してしまった。
代々医師の家系である麗香の一族。結婚相手ももちろん、将来有望な医師だ。
「ねえ和哉。私ね、彼と結婚するの」
そう報告してきた麗香の笑顔が少し悲しそうに見えたのは、ただの思い込みなのか、数年経っても和哉にはわからずにいた。
そうして和哉の中にぽっかりと空いた穴は、誰にも埋められることなく、その空白を持て余していた。
仲間たちに誘われる食事会でもなんとなく居心地の悪さを感じて、その居心地の悪さを誤魔化しながら過ごすことだけが上手になっていった。
だから、恵比寿ガーデンプレイスで「和哉くん」と声を掛けられた時も、和哉はすぐに彼女のことを思い出すことができなかった。
たった1人の女
ある4人の男たちがいた。
港区で生まれ育ち、多くの女性たちと浮名を流してきた彼ら。
そんな彼らにはそれぞれ、東京で“たった1人”と言える女性がいた。
他の誰にも置き換えられない、特別な女性―。
これは、“たった1人”の女性と出会ってしまった、4人の男の、狂おしくも切ない物語。