ある4人の男たちがいた。
港区で生まれ育ち、多くの女性たちと浮名を流してきた彼ら。
そんな彼らにはそれぞれ、東京で“たった1人”と言える女性がいた。
他の誰にも置き換えられない、特別な女性―。
これは、“たった1人”の女性と出会ってしまった、4人の男の、狂おしくも切ない物語。
前回は、脳外科医・翔太が出会った優子との物語を紹介した。さて、今回は?
その日智弘は“恋に落ちる”という感覚を、人生で初めて味わった。
もちろん、その瞬間に恋に落ちた実感なんてなかった。
ただ、よくわからない衝撃や衝動、戸惑いなど、いくつかの感情が智弘を一気に襲った。
それは今日のようにとても暑くて、13時過ぎに20分だけ降ったドシャ降りの雨なんてまるで幻だったかのように、コンクリートがジリジリと熱を放っている午後だった。
「はじめまして」と、明るい笑顔を向けてくる麻友に出会ったのは。
◆
34歳、外資系大手戦略コンサルティング会社で働く智弘のまわりには、美女が湧き出るように集まってきた。
雑誌やテレビで見たことのある女性たちと食事をするのも、智弘にとっては特別なことではなかった。
麻友に出会ったのも、雑誌で活躍するモデルとデートを重ねていた頃だ。
幼馴染の雅基と、ホテルのプールで2杯目のビールを飲んでいる時だった。
ホテルの顧客や会員のみが入れるプレオープンに招待されたという雅基に、誘われるまま付いて行ったのだ。
「おお、久しぶり!」
そう言って雅基が声をかけた女の子の隣にいたのが、麻友だった。
麻友と目が合った瞬間から智弘はもう、抗いようもなく彼女に夢中になっていた。