36歳になった今でも、仲間たちで集まると盛り上がる、雅基に関する鉄板ネタがある。
「この中で最初に週刊誌に撮られたのは、俺じゃなくて雅基だからな」と。
そう言うのは、小学生のころから芸能事務所に所属し、今もタレントや俳優として活躍している桜沢だ。
雅基、翔太、智弘、和哉、そして桜沢は、小学校から大学までを私立の学校で一緒に過ごした。
そこはエリートや名家の子どもたちが通う学校として有名で、今も昔も毛並みの良い者が揃っている。雅基はその中でも目立つ存在だった。
雅基の父親は、有名な政治家。
そのせいで、今では度々週刊誌を騒がせるようになった桜沢より先に、当時まだ高校生だった雅基が誌面に載ったのだ。
六本木で遊んでいるところを撮られた。その時の見出しには「ドラ息子」という文字が躍っていた。
父親は真面目な堅物だ。そんな父親に反抗するように、学生の頃から派手に遊び、ドラ息子と言われても仕方ないような生活を送っていたのはたしかだ。
36歳になり、食品輸入会社を経営するようになった今も、彼らと西麻布のバーの個室に集まると、当時のことが話題に上る。
そんな雅基をこの数年、一番近くで見て、文句を言いながらも支えてくれているのが、恋人である彩香だ。
雅基も彩香を愛している。
「正直僕は、結婚願望はないんだ。でも、よければ付き合ってほしい」
付き合う前、雅基が最初に伝えた正直な気持ちだ。
結婚願望がないのは、相手が彩香だからではない。一生、誰とも結婚する気はなかった。
雅基には結婚というものが、窮屈に思えて仕方がないのだ。だからいつの頃からか、最初にそう宣言するようになっていた。
友人からは否定するように言われていた。
「それは女性に、踏み絵を踏ませているようなものだ」と。
たった1人の女
ある4人の男たちがいた。
港区で生まれ育ち、多くの女性たちと浮名を流してきた彼ら。
そんな彼らにはそれぞれ、東京で“たった1人”と言える女性がいた。
他の誰にも置き換えられない、特別な女性―。
これは、“たった1人”の女性と出会ってしまった、4人の男の、狂おしくも切ない物語。