彩香は、5歳年下の31歳。
大手航空会社でCAをしており、すらりとした長身と品のある整った顔立ちで、まわりの視線を集める女性だ。
白い肌に漆黒の髪を持ち、瞳は常に少しだけ潤んでおり、清楚な中に艶やかさも漂わせている。
2年前、29歳の彩香と出会って、雅基はすぐに彼女を好きになった。
まるでドラマのような出会いだが、それは飛行機のビジネスクラスでのことだった。
その日雅基は、フランス経由でイタリアへ行くため、浮かれながら一人で飛行機に乗っていた。
目的は、愛してやまない車・フェラーリのファクトリー見学のためだ。
当時雅基は、智弘に教えられて作っていたダイナースクラブカードを使って、フェラーリを一括払いで購入していた。
そうして車を手に入れるのと同時に大量のポイントを得た雅基は、念願だったフェラーリのファクトリー見学へ行くことにしたのだ。
だからいつもよりテンションが高かったということも、あるのかもしれない。
とにかくその日、機内できびきびと仕事し、美しい笑顔を向けてくる彩香に心を奪われた。
日本に帰国すると、彩香が働く航空会社でパイロットをしている友人を伝ってなんとか食事の機会を作ってもらい、恋人の座を得た。
「ええ、よく覚えているわ。まるで子どもみたいに、目をキラキラさせてお話しされていましたから」
食事会の席で彩香は、機内で会った時の雅基を思い出しながら言った。
そして付き合って2年が経つ今も、彼女は度々同じようなことを言ってくれる。
「もう、まるで子どもみたいね。でも、それがあなたの素敵なところよね」と。
最新のスマホを買ったり、最高級のスピーカーを揃えたり、大きなものでも小さなものでもとにかく、新しいものやこだわりのものにかける情熱は、人並み以上だ。
「僕は、少しの贅沢で非日常感を味わうことを、仕事のモチベーションにしてるんだよ」
雅基がいつも言う言葉だ。
彩香からは「またそんな物を買ったの?」と言われることもあるが、それでも彼女は優しい笑顔を向けてくれる。
だがこの数カ月は、事あるごとに含みを持った言い方をされることが増えてしまい、雅基は複雑な思いを抱えていた。
彩香が何を望んでいるかは、雅基だって十分理解している。
結婚だ。
彩香は決してはっきりと言葉にすることはないが、31歳でCAを続けているというのは、色々な意味で辛いらしかった。
体力的にもきつく、次々に辞めていく同僚や後輩を送り出す日には、虚しさと不安を感じているようなことも遠回しに言われた。
彩香は、「結婚願望がない」という雅基の意志を尊重する一方で、いずれこの考えが変わるのではないかという期待も、おそらくあったのだろう。
雅基だってその気持ちに、気づいていないわけではなかった。