蝶よ花よと男性からもてはやされ、煌びやかな生活を送る港区女子。
その栄華は当然ながら、長続きしない。
彼女たちもそのことを理解しており、適切なタイミングで次のステージへと巣立ってゆく。
かつて港区女子だったことを露とも思わせぬ顔で、彼女たちは“一般的な”東京生活に溶け込んでいく。
外資系ジュエリー企業の宣伝部に勤める、香(カオル)。かつて港区女子だった彼女も、今は何食わぬ顔で東京生活に溶け込んでいる。
香は如何にして「港区女子の向こう側」へと辿り着いたのだろうか。
同い年の将生と出会い、彼の存在が気になるものの、26歳の港区女子・里奈がホームパーティーで料理を作ってきて、敗北感を覚える。
香はホームパーティーの帰り、将生が好きだというビールを買って家で飲んでいると、彼氏の純一が出張から帰ってきた。
「あれ?ビールなんて、珍しいね」
最近はワイン一辺倒だった香に、純一はそう言った。
「そうなの。たまにはビールもいいかなと思って…」
別に悪いことをしている訳ではないのに、将生のことを思い返すとドキドキしてしまう。
「そうか。香も大人になったね」
「大人?」
香がそう聞き返すと、純一はこう言った。
「ビールもワインも、場面に合わせて飲めるようになれば、大人になったっていう証拠じゃないか」
そう言って微笑む純一は、いつも優しい。
どんなときも正面からぶつかってくることはないし、香の気持ちを先回りして優しい言葉をかけてくれる。一方、純一の言うことは正しいから、香の言いたかったことは喉元で止まってしまう。
―純一さんも、一緒に飲んでくれたらいいのに……。
そう思ったが、その言葉はぐっと飲み込んだ。純一は、イタリア出張で忙しい中でも、ちゃんと香が好きなワインを買ってきてくれたのだ。
「お土産のワインも飲んでみる?香が好きそうなの、見つくろってきたよ」
「ありがとう。すごく嬉しい」
そう言って、ワイングラスを取り出し、純一が買ってきたワインを2人で飲んだ。