• PR
  • 港区女子の向こう側 Vol.3

    彼女を“育てたい”港区おじさんと、巣立っていこうとする港区女子。すれ違いからの衝撃的な結末

    嫌なことというのは、続くのだろうか。

    飲み会が終わり26時頃に帰宅すると、純一がリビングで一人、ワインを飲んでいた。いつもより、重々しい空気を感じた。

    「お帰り」

    純一は穏やかにそう言ったが、明らかにいつもとは違う調子だった。

    「香、話があるんだ」

    この後に続く純一の言葉は、全く予想していなかった。

    「ごめん、香。別れて欲しいんだ」


    「え…。なんで……?」

    香は、とても動揺した。

    今まで生きてきた中で、男にフラれたという経験がなかった。純一が口にしていることが、いまいち実感がない。

    「……どうしてなの?」

    すると純一は、今まで見たことのない、辛そうな顔で言った。

    「実は、他に好きな女性ができたんだ」

    「……え?」

    将生のことが気になりながらも、先に純一から別れ話を切り出されるなんて、香にとっては青天の霹靂だった。香はこれまでの人生、男性にフラれたことがない。

    その衝撃はかなり大きいものだったが、香にだってプライドがある。泣いて取り乱すようなことは、したくなかった。

    ずっと黙りこくっている香に、純一は「ごめん」とただ謝り続けるばかりだった。その日は、一睡もできなかった。



    後にミカから聞いた話によると、純一の新しい彼女はちょうど里奈と同じ年くらいの、モデルらしい。港区女子のネットワーキング力は凄まじいものがある。あっという間に、噂は広まるのだ。

    「…男って、本当に若い子が好きよね」

    ミカの言葉に香が反応しないでいると、慌てて付け加えた。

    「いや、もちろんその子より香の方が数段可愛いわよ!」

    しかし香は同情されるのが何よりも嫌いなので、話を切り替えた。湿っぽい話は、純一との話し合いでもう充分だった。

    「それより、ミカの会社は順調なの?」

    ミカは最近、念願だったPR会社を始めたのだ。

    「いや、自分で何から何までやらなきゃいけないから大変よ。でも何とかやってるわ」

    謙遜してそう言ったが、遊び歩いていた昔より楽しそうなのは、目に見えて明らかだった。

    香はミカの姿を見て、「港区女子」は自分もそろそろ卒業かな、と思っていた。

    純一から別れを切り出され、それまでどんよりしていた気持ちだったはずなのに、「卒業」後に新しい生活が待っているかと思うと、それはまだ見ぬ新しい世界に飛び込むような、ワクワクした気持ちになったのだ。

    そのとき、香は気づいた。

    この底知れぬ好奇心こそが港区女子だったゆえんだろうし、純一との関係はそれが満たされていたからこそ、成り立っていたのであろう。


    ―本当に自分が好きな人は…。


    そこまで考えて、出てきた将生の顔を振り切った。


    ▶NEXT:2月14日 木曜日更新予定
    次週、最終回。港区女子を卒業し、香の選んだ道は?

    【港区女子の向こう側】の記事一覧

    もどる
    すすむ

    おすすめ記事

    もどる
    すすむ

    東京カレンダーショッピング

    もどる
    すすむ

    ロングヒット記事

    もどる
    すすむ
    Appstore logo Googleplay logo