蝶よ花よと男性からもてはやされ、煌びやかな生活を送る港区女子。
その栄華は当然ながら、長続きしない。
彼女たちもそのことを理解しており、適切なタイミングで次のステージへと巣立ってゆく。
かつて港区女子だったことを露とも思わせぬ顔で、彼女たちは“一般的な”東京生活に溶け込んでいく。
外資系ジュエリー企業の宣伝部に勤める、香(カオル)。かつて港区女子だった彼女も、今は何食わぬ顔で東京生活に溶け込んでいる。
香は如何にして「港区女子の向こう側」へと辿り着いたのだろうか。
同い年の将生と出会い、彼の存在が気になるものの、26歳の港区女子・里奈と将生が一緒に歩いているのを目撃してしまう。
しかもその日、同棲していた彼氏・純一に別れを告げられて、落ち込んでいた香だったが…?
「あ、このヒール…。もう履かないかな」
純一と別れたあと、香は同棲していた元麻布の部屋から目黒へ引っ越した。今日は引っ越したときの荷物をほどきながら、シュークローゼットの断捨離をしていたのだ。
「よし、もう捨てちゃおう」
港区で遊でいたときによく履いていた真っ赤なハイヒールは、ヒール部分の傷も目立っていたし、1ヶ月も履かなかったら埃をかぶって、何となく色褪せて見えたのだ。
生活環境が変わると、身につけるものも自然と変わる。目黒はとにかく坂が多いし、ペタンコ靴も1足あると、休日は便利そうだ。
―そう言えば、この間銀座をぶらついているとき、可愛いバレエシューズがあったな。
明日にでも早速新しい靴を買いに行こう、そう思うと楽しい気分になってきた。香は昔から、「切り替えが早い」と周囲から驚かれる。
目黒という地にあまり馴染みはなかったが、港区にも渋谷区にも近く適度に賑やかで、しかし落ち着いた大人の雰囲気があるところが気に入っていた。遊びに来る人より、住人やビジネスマンの方が多いからだろう。
綺麗になったシュークローゼットを見て、すっかり満足した香は、出かける準備を始めた。
今日はミカが、目黒に遊びに来る予定だった。