東京・ホテルストーリー Vol.12

もう、あなたに振り回されていた、昔の私とは違う。

東京の女には、ホテルの数だけ物語がある。

「ホテル」という優雅な別世界での、非日常的な体験。それは、時に甘く、時にほろ苦く、女の人生を彩っていく。

そんな上質な大人の空間に魅了され続けた、ひとりの女性がいた。

彼女の名は、皐月(さつき)。

これは、東京の名だたるホテルを舞台に、1人の女の人生をリアルに描いたストーリー。

埼玉出身のごく普通の女子大生だった皐月は、東京で様々な人生経験を積み、30歳の誕生日にプロポーズを受け無事結婚式を迎えた。しかし、現実的な結婚生活に疑問を持ち始めた頃、元彼の直樹再会してしまう


「元彼」という、特別な男。

しかも、結婚を強く望んで破局に至った直樹は、私にとって果たせなかった夢であり、20代の象徴とも言える存在だった。

丸の内ブリックスクエアの薄暗い中庭で再会した彼を、少し目を凝らして見つめる。

数年の時を経た直樹の顔は、頬の肉が少し削げ、肌の張りが弱まっているようだ。だが、それは悪い意味でなく、大人になった男が放つ、ちょっとした色気を帯びていた。

「久しぶりだね......」

直樹は遠慮がちな視線で、でもしっかりと私の全身捉える。過去の女に媚びるような声の出し方も、今の私には耳に心地よかった。

「皐月、もし時間あったら...お茶でもできないかな?」

胸の奥から、懐かしい感情がざわざわと顔を出す。

この時が止まったような緊張感も、ふわりと浮足だつような感覚も、しばらく忘れていた。

刺激のない単調な日常を送る、自由で時間を持て余した女が、どうしてこの甘露な誘いを断ることができるだろうか。

ただ、私が夫を持つ身であることは、都合よく心の隅に追いやってしまった。

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