上京10年目 Vol.5

母の荷物を持つようになり、親との役割が交代していくことを痛感する、上京10年目の春

―東京にいる意味って、何だろう―。

仕事のため、夢のため、欲望のため……?

上京10年となる節目の年に、人はあらためて問う。

自分が東京にいる意味と、その答えを。

28歳の朝子もその一人。朝子が抱える東京への固執と葛藤は、どこに着地するのだろうか。

18歳で上京した朝子だが、このまま東京にいていいのかという迷いが芽生え、東京と故郷の間で気持ちが揺れ始める。風邪で寝込こんだり目黒川の桜を見たことで、さらにその気持ちは強くなった。


「行ってきまーす」

代官山の、誰もいない部屋に向かって小さく呟く。

玄関扉の鍵をしめて、リモワの赤いスーツケースを引きながらエレベーターに乗り込んだ。

土曜日の朝8時過ぎ。旧山手通りの車は少なく、タクシーもまだあまり通っていないけど、しばらく待ってようやく通った1台を停めた。

「渋谷のモヤイ像のところまでお願いします」

それだけ告げて、流れる景色を見ることにした。

今日は、法事のため実家に帰る日。年末に帰って以来、約4ヵ月ぶり。

最近は、お正月とお盆の年に2回しか帰っていなかったから、今年はいつもより1回多く帰ることになる。

月曜日は有給をとっているため、2泊3日の帰省。行く前は、ちょっとゆっくりできるかなって思うけど、結局いつも大したことはできないまま、あっというまに帰りの飛行機の時間になってしまう。

地元に帰るかを真剣に悩んでいる今、東京に戻って来られなくなるんじゃないかって、ちょっと不安でもある。

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