桜咲き誇る、春の中目黒。
高架下再開発などもあり、2017年現在、東京で最もupdate感のある街。
そこで出会った、自意識過剰に見えながらコンプレックスを抱えた26歳の女と、思ったことをズバズバ言う28歳の男。
二人は、シェアハウスというひとつ屋根の下でぶつかり合いながら、互いに何かに気づいてゆく。
憧れだった外資系ハイジュエリーの広報部に転職した美奈だが、仕事がうまくいかず落ち込んでいた。現状を変えるべくシェアハウスに入居する。そこで苦手なタイプの男・司と出会い、彼を避けるようにしてシェアハウスに住んでいたが、ある日司にぶつかり気まずい空気が流れた。
司「放っておけないような、力になりたいような」
思いがけず美奈にぶつかった司は、柄にもなく動揺していた。
リビングで遭遇した彼女からは、なんだかとても良い匂いがしたのだ。
いつもの高飛車な雰囲気と正反対のイメージで、こちらを心地良くさせるような香り。そのギャップに、柄にもなく司の鼓動は乱れた。
「あ、ごめん」
動揺を悟られまいとするように、司は反射的に謝り顔を逸らす。
女性が、仕事で認められるためには男の3倍頑張らないといけないと聞いたことがある。
仕事内容だけでなく、周りへの気遣い、身だしなみ、丁寧さ...。求められることは多く、頑張り屋の女性ほど、自分をすり減らし消耗していく。
美奈も、そんな女性の一人なのだろう。自分の弱い部分を隠すため、結果高飛車な態度をとるようになってしまったのだ。だが、本当の彼女はこの甘い香りが似合う、しなやかな女性なのかもしれない。
「あんたさ、まわりを威嚇するのやめなよ」
司は口を開き言葉を続けようとしたが、それを遮るように美奈が言った。
「威嚇ってなによ。まるで私が気性の荒い女みたいじゃない」
「いや、まだ話の途中だから。人の話は最後まで聞けよ」