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それからあっという間に時間が流れ、最初に決めていた6ヵ月目が迫ってきた。
美奈は、少しの迷いはあったものの予定通り一人暮らしの部屋を決め、シェアハウス最後の日を迎えた。
「沙織さん、本当にありがとうございました。私、沙織さんがいなかったら完全に孤立して、半年も居られなかったと思います」
「司くんにも、挨拶できれば良かったのにね」
寂しそうに沙織が言った。
シェアハウスを出る日、司は出張で数日前から不在だった。
司に励まされて以来、美奈は司と軽口を叩く程度には仲良くなった。だがこの1カ月、司の仕事は多忙を極めているらしく、顔を合わせる回数がめっきり減っていた。
美奈がシェアハウスを出ることは、人づてに聞いて知っているようだが、LINEで連絡を取るほどの仲でもないため、直接伝えられていない。
ひっかかりを抱えたまま、美奈はシェアハウスを後にして新居のある目黒へと移り住んだ。その後、司と会うこともなかった。
それから2ヵ月経った今でも、“ないもの探し”を始めそうになった時は、『マシェリ』のボディーソープの香りと、司の言葉に背中を押してもらう。
司の嘘のない言葉とこの香りで、ブレそうになる理想の女性像を正しながら、自信をもらうのだ。
司「随分雰囲気が変わったなって。一瞬見惚れました」
司が出張から戻ると、美奈はもういなくなっていた。
沙織から、美奈の引っ越し先を聞いたが、だからといって会いに行くような関係でもない。
「なんだよあいつ、挨拶もなしに」
そう言って、不自然にならないような笑顔を作った。
◆
それから5カ月後―。
司は銀座で美奈を見かけた。日曜日の歩行者天国。多くの人が行き交う中で、美奈の姿だけが司の目に飛び込んできた。
あの頃、自信のなさを隠すため高飛車な態度で、なんとも鼻につく印象だった美奈が、柔らかな表情で銀座の街を歩いていたのだ。
細いヒールをコツコツ鳴らしながら歩く姿は、一瞬見惚れてしまうほどのいい女。
―やっぱりそうだよな。あんたはめちゃくちゃいい女なんだよ。
司は、自分の目に狂いはなかったと言わんばかりの自信を持って美奈の方へ、大きく一歩踏み出した。
(Fin.)
美奈が新居でも使っているボディソープはコレ!
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