上京10年目 Vol.1

上京10年目:28歳。東京にいる意味が見いだせなくなった時、思い出すのはあの景色

東京で頑張った先には、何がある?


最近、無性に地元が恋しくなる時がある。

理由はなんとなくわかってる。今の仕事に楽しみが見いだせなくなったことと、年に数回しか会わない両親が、会うたびに老けていってるから。

上昇志向は持ち続けているけど、家族も恋人もいない東京で頑張り続ける理由を、見失う時がある。

東京に友達はたくさんできたし、仕事のやりがいはある。でも、終電帰りが続いてくたくたになった時や、何も予定がなく家で一人の週末を過ごしている時なんかに、ふと思う。

この生活が、いつまで続くんだろう。何のために、こんなに東京で頑張ってるんだろう。頑張った先には何があるんだろうって。

東京でもっともっと頑張って上を目指そうとする人生も良いけど、地元に帰って家族の近くでそれなりに仕事をする人生も、それはそれでありなんじゃないかなって。

実際、東京で知り合った友人の何人かは、地元に帰る決断をした人もいる。私も、もしいずれ帰るのなら、30を過ぎてしまってからでは遅いのではないかという、変な焦りがある。

地元に帰るなら、28歳の今がラストチャンスのように思える。転職先を探すのも、結婚相手を見つけるのも、福岡でと考えると28歳がギリギリに思えてしまう。

あんなに離れたいと思っていた地元が、こんなに恋しくなるなんて思いもしなかった。

つい先日は、Facebookで同窓会の案内がきた。ゴールデンウィークに、同級生が地元で開いた居酒屋で、高校3年の時のクラスメートが集まるらしい。

18歳で上京した私は、大々的な同窓会には参加したことがなくて、強いて言えば成人式が最後の同窓会のようなものだった。

あの頃の私は東京にいる自分が誇らしくて、地元に残っている彼らを少し見下すようにしていた。

東京の生活を聞いてくる彼らに、青山や表参道、六本木、お台場なんかの話を得意気にしていた自分が恥ずかしい。



同窓会の返事を出せないまま、代官山の蔦屋書店をブラついて帰ってきた日曜の夜。

自宅に帰ってシャワーの準備をしていると、テーブルに置いていたスマホがふるえた。見ると、同期の沙羅からのLINEだった。

「この前言ってた尚樹くんと恵比寿で飲むことになったよ!向こうは友達と一緒らしいから、朝子もこない?」

尚樹とは、沙羅が最近行った食事会で知り合い、好みのタイプど真ん中と言っていた男だ。

壁の時計を見ると、すでに20時をまわっている。しかも今日は日曜日。行くか行かないか一瞬迷ったものの、答えはもう決まっていた。

「OK!10分後には出るね」


そう返して急いでメイクを直し、洋服を着替えた。マンションを出てタクシーを拾い、向かったのは『ノック クッチーナ ボナ イタリアーナ』。インスタ映えするインテリアで女性から人気の、味も抜群なイタリアンだ。

タクシーの中でスマホを握りしめながら考えた。

―こんな生活、東京じゃなきゃできないよね。

私の気持ちはこうして揺れる。振り子のように、右に左に。

でも、心の奥ではちゃんとわかってる。上京して10年、これからも東京にいる覚悟があるのか、それとも……。

一度きちんと向き合わねばならないことは、ちゃんとわかっている。


▶Next:3月13日月曜配信
東京の象徴のような場所を訪れ、朝子はさらに、地元へ想いを馳せることに……?

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

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