2017.02.21
SPECIAL TALK Vol.29名門女子校で培われたコミュニケーション能力
金丸:御手洗という名字は珍しいですよね。
御手洗:ルーツは大分だと聞いています。でも生まれは、東京の大田区です。
金丸:お住まいはずっと東京なのでしょうか?
御手洗:はい。ずっと東京で、高校までは田園調布雙葉学園に通っていました。
金丸:名門女子校ですね。どのような学生でしたか?
御手洗:そうですね、わりといたずらっ子だったのですが、先生とも仲が良く、そんなに怒られなかった気がします。一貫校で付き合いが長いせいか、生徒も先生に親しみを持っていて、みんな仲がいいんです。
金丸:私の地元の鹿児島では考えられません。それに私はすぐに怒鳴られる生徒でしたし(笑)。ところで部活は何を?
御手洗:小学校高学年から剣道を習っていました。はじめは弟の付き添いで道場に行っていたのですが、次第に私もやりたくなってしまって。中学高校は剣道部でした。二段を持っているんですよ。あとは、子どもの頃からよく国際キャンプに参加していました。
金丸:国際キャンプというのは?
御手洗:いろいろな国の子どもたちが集まって、共同生活を送るんです。うちの母が「学校も楽しいけど、学校だけだと自分の世界が狭くなってしまうから」と言って、夏休みの度にいろんな学外の活動に参加していました。その一つに、この国際キャンプがありました。
金丸:はじめて参加したのは、いつですか?
御手洗:11歳のときです。CISVという国際ボランティア団体が主催しているキャンプに参加するため、ポルトガルに行きました。12ヵ国から私と同じ11歳の子どもたちが50名ぐらい来ていて、1ヵ月間いっしょに生活しました。
金丸:ポルトガルですか? ずいぶん遠くまで行きましたね。英語は話せたんですか?
御手洗:いいえ、まったく話せなかったです。英語が母国語じゃない子もいるので、プログラムも最初は参加者が仲良くなるためのアクティビティが多いです。名前を覚えるゲームから、かけっこ、国の文化紹介など。終盤になってくると、平和教育ゲームなどをやりました。たとえば「PEACE WAR PEACE」というゲームがあります。
金丸:どんなゲームなんですか?
御手洗:まずいくつかのチームに分かれて、模造紙の上に、自分たちの「理想の国」を工作していきます。チームのみんなで話し合いながら、1時間ぐらいかけて作ります。カラフルなものやバルーンが飛んでいるものなど、楽しい国に仕上げていくんです。で、完成したら、それを別のチームと交換します。手元には、他のチームが作った作品がやってくる。その瞬間、それまでスローだったBGMが急にパンクに変わって、「じゃあ、それをめちゃくちゃに破壊しましょう!」と言われるんです(笑)。
金丸:えっ! ちょっと想像しない展開(笑)。
御手洗:ですよね。で、ぐちゃぐちゃに壊すんですよ。子どもって残酷なところもあって、他人が作ったものを勢いよく壊せちゃうんです。みんなが作った「理想の国」は、5分ほどですっかり壊れてしまいます。そこで、それぞれの作品をもとのチームに戻すんです。破壊された作品が自分のチームに戻ってきて、「今度はこれを直しましょう」と。だいたい、みんな途方に暮れますね。自分が作ったものが壊されたと怒る子もいますが、自分も他のチームのものを壊したし……。
金丸:全員がお互い様、というわけですね。
御手洗:はい。一度壊された作品を、もう一度作り直していくのは本当に大変です。PEACE WAR PEACE。平和、戦争、平和という名前の通り、その疑似体験をさせて、どう感じたのかを議論するんです。
金丸:日本の教育では考えられないプログラムです。こういう感情を子どもに理解させるというのは驚きですね。
異文化間のコミュニケーションの難しさを体感し、悩み抜いた高校時代
金丸:その後も国際キャンプには、よく参加されたのですか?
御手洗:はい、チャンスがあれば手を挙げるようにしていました。中学3年生のときにまた参加できる機会があったのですが、そのとき参加したドイツのキャンプでは、価値観を大きく揺さぶられました。10ヵ国ぐらいから同世代の子たちが参加していたんですけど、もう荒れに荒れてしまって。
金丸:何があったんですか?
御手洗:朝は起きてこない、プログラムに参加しないは当たり前。ルールを守らないどころか、昼からお酒は飲むわ、夜に脱走して警察に捕まるわで……。
金丸:15歳、ですよね?
御手洗:はい、中学生です。そんな状況で私がキャンプの議長になってしまいました。それでキャンプミーティングのとき、みんなに「このメンバーがこうして集まるのは一生に一度だし、しっかりとルールを守って、みんなでいいキャンプにしていこう!」と言ったんです。そしたら、コロンビアのホセという体格のいい男の子が手を挙げ、「たまこ、それは日本人の価値観なんじゃないか?」と言ったんです。「みんなで作ったルールに従えば、いいキャンプになるって? それが一番ハッピーな形だっていうのは、君の意見に過ぎないんじゃないか?」と。彼の主張は「キャンプは仕事でもないし、学校でもない。親の目もないんだから、できるだけリラックスした方がいいじゃん」というものでした。
金丸:自由な場所にいるのに、なぜわざわざルールに従わないといけないのか、楽しんだ方がいいじゃないか、ということですね。
御手洗:はい。それを聞いた瞬間、それも一理あるなあって思ってしまって。私は自分の言っていることが正しいと思って発言したのですが、それは一方向から見た意見でしかないんだ、と気づきました。それで最終的にいいキャンプになった、という話ならいいんですが、そうもいかず……。結局、最後までキャンプはバラバラでした。日本に帰ってきてからもずっと、あのときどうすればよかったのか、と考え続けていました。
金丸:いま世界で起こっている争いの多くは、そのような価値観の相違から生まれているのではないでしょうか。ちなみに、いまの御手洗さんだったら、ドイツでのキャンプ問題をどう解決しますか?
御手洗:いまだったら、みんなの話をもっとちゃんと聞いた、と思います。お酒を飲んでいる人や、夜に脱走している人のところに行って、彼らの話を聞く。当時は、なんとなく怖くて、避けていたんです。会議の場で正論を言うだけになっていました。もしあの場に戻れるなら、一人ひとりと話し、相手の気持ちを理解した上で議論をしたと思います。
金丸:世界に出れば出るほど、価値観は多様です。宗教も違うし、文化も違う。でもそういう多様性に、小さい頃から触れているのは本当に貴重な体験ですよね。
御手洗:自分が正しいと信じていても、その価値観が根底から違うこともあると痛感しました。このキャンプが2000年のことで、翌年にはアメリカ同時多発テロが起きました。かなりショックを受けましたが、背景を勉強していくうちに、自分がドイツのキャンプで感じた価値観の相違の延長線上に、こういう事件が起こるんじゃないかと理解しました。
金丸:自身の経験と重ねて考えるとは。高校1年生でそこまで当事者意識を持てる人はなかなかいないと思います。
御手洗:誰かが幸せに暮らしているとき、その生活が、世界の反対側の誰かを不幸せにしていることがある。でも、幸せに暮らしている人の方はそれに気づかない。そういうことって嫌だなぁと、思っていました。高校生の頃は、そうならない世の中にするにはどうしたらいいんだろう、ということばかり考えていましたね。まるでオタクのように文明論や言語にまつわる本、認知神経科学の本などを読み漁っていました。もちろん高校では社交的にしていましたが、家ではひたすら読書に励む。そんな二面性がありました。
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