SPECIAL TALK Vol.28

~大切なのは、2種類の実行。それは物事を始める実行と、始めたものを続ける実行~

司法試験合格まで苦節10年、初めての挫折を味わう

金丸:将来については、どのように考えていましたか?

迫本:世界で活躍する実業家になりたいって、幼稚舎の頃から思っていました。『五番街の日章旗―ソニーの海外戦略』という本を読んで、その世界に憧れてましたね。ソニーが初めて海外に進出するタイミングだったし、自分もそんなふうに自分でものを作って、世界に認められる仕事がしたいと思っていました。

金丸:だから大学は、経済学部に進んだんですね。

迫本:経済の勉強をしつつ、英会話スクールにも通っていました。徹底的に英語を磨いて海外の名門ビジネススクールに行き、起業したいと思っていたんです。でも学部卒でビジネススクールに入るのは、非常に難しい。そこで何か資格を取得すればその道が開けると思い、経済学部を卒業後、法学部3年に学士入学しました。

金丸:起業という夢をかなえるために、司法の道を志したと。

迫本:ただ当時ビジネススクールに行くには、有名企業に就職しないと厳しいということもあり、卒業後は松竹映画劇場株式会社に入社しました。名前こそ松竹ですが、エンタメとは関係なく、映画館の経営や不動産業を行っている会社で、普通に会社員として働いていました。だけど、27歳のとき「やっぱり弁護士になりたい」と一念発起しまして。働きながら試験勉強を始めたんです。

金丸:迫本社長のことだから、一度決めたらゴールに向かって邁進されますよね。結果も早々に出たんじゃないですか?

迫本:それが本当に大変で……。択一試験はすぐに受かったんですけど、論文試験がまったく通らず。結局、受かるまでに10年もかかってしまいました。この間が人生で一番苦労しましたね。27歳で結婚し、子どもも脳性麻痺の長男をはじめ3人いたので、それはもう大変でした。

金丸:これまで順風満帆で来ていただけに、初めての挫折というわけですね。

迫本:まさに。幼稚舎から大学まではそれなりに実績を残してきたのに、20代の後半でつまずいてしまって……。働きながら司法試験を受けては落ちる、の繰り返しでした。

金丸:司法試験は通るか通らないかがすべて、ですからね。

迫本:「今回はイケる!」と思ってもギリギリで落ちたりして。世界中のアンラッキーが自分に集まってきているんじゃないかと思い悩みましたよ。

金丸:結局、何歳で合格したんですか?

迫本:37歳。丸10年ですよ。当初は〝エンターテインメントに長けた弁護士〞というのをステップに起業し、そこから世界でビジネスを行うという計画だったのに(笑)。

どこも取り合ってくれない就職活動を経て、夢中で働いた弁護士時代

金丸:それからすぐ弁護士活動を始めたのですか?

迫本:研修所に2年ほど通って、三井安田法律事務所という、いまはもうないんですが、当時新興だった渉外事務所に入りました。弁護士の就職活動というのは、事務所をひたすら訪問するんですけど、このときの事務所訪問も本当につらかったですね。渉外事務所っていうのは、基本的に若手が欲しいんですよ。僕みたいに年がいってると、年齢を見た瞬間、「君とは会う理由がない」と断られたりする。結構傷つきました。いまでも当時のことを思い出すと、悔しい気持ちになります。

金丸:そういう経験って、忘れないですよね。

迫本:そうですね。事務所訪問が嫌で嫌でしょうがなくて、事務所ビルの横の非常階段で脚を抱えて「もう行くのやめようかな」といじけていたこともあります。

金丸:もう37歳なのに……(笑)。笑っちゃいけないけど、想像するとおかしい。

迫本:だから三井安田法律事務所には、すごく感謝しています。新興だったので若手がうまく集まらず、僕のような経歴でも入ることができたから。

金丸:それで、待望の弁護士生活はどうでしたか?

迫本:死ぬほど働きました。朝から夕方までは接客と電話対応。夕方の17時ぐらいから自分の仕事ができる時間なんですが、そこから働きだすので一番ノってくるのが深夜0時頃。そこで止められなくて、結局3時か4時ぐらいまで毎晩働いていました。松竹に入った頃、深夜0時に帰るようになったんですけど、妻から「人間らしくなったわね」って褒められました(笑)。

金丸:あの頃は、そういう時代でしたよね。私も会社でよく寝泊まりしていました。ちなみに、いま日本政府が「働き方改革」を進めていますが、迫本社長はどのようにお考えですか?

迫本:政府が働き方に関心をもつこと自体、素晴らしいと思います。僕たちの若い頃に比べると、テクノロジーの進展で働く環境が大きく変わっています。知恵を絞れば、いろんな働き方ができますよね。とくにうちは女性の比率が高いので、柔軟に対応したいと思っています。

金丸:女性はライフステージが変わるときに、選択を迫られることが多いですからね。

迫本:そうですね。やはり子育てと仕事の両立というのは、いろんな考え方があって、子育てに専念したい方もいれば、子育てが落ち着いたら前と同じように働きたい方もいる。そういう気持ちだけでなく、保育園に入れるかどうかとか、パートナーの理解があるか、親が近くにいるかどうかといった周囲の環境にも大きく左右されますから、会社として個々の状況を見ながら、女性の思いにしっかり寄り添っていきたいです。

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