SPECIAL TALK Vol.27

~成長の速度を早めるには、人の何倍も自己犠牲を払うのみ~

いざ、札幌へ。ハンバーグとの出合いが運命を変える

金丸:ところで子どもの頃は何になりたかったのですか? 将来のイメージはありましたか?

三國:まったくなかったです。兄も姉も中学を卒業すると出稼ぎに行き、実家に仕送りをしてくれました。でも僕はどうしても高校に行きたくて。中学の先生に相談したら「札幌の米屋に丁稚奉公に行けば、寝るところもご飯もあるし、お金ももらえる。夜間学校にも行ける」と教えてくれました。手に職をつけないといけないし、料理人だったら一生食っていけるだろうと思って、調理師学校を目指したんです。食べ物の近くにいれば死にやしないからいいや、くらいの感覚でした。

金丸:それで、札幌に行くわけですね。

三國:15歳のときに。昼は米屋で働き、夜は学校に通うという生活が1年半続きました。

金丸:当時はフランス料理どころか、洋食も珍しい時代です。なぜフランス料理の道に進まれたのですか?

三國:米屋の娘さんが栄養士をしていて、故郷の増毛では見たこともない料理をいろいろ作ってくれました。お肉もたくさん出てきた。お肉って、実家では1年に1度しか食べられないんですよ。家族全員がそろう正月に、みんなで『松尾ジンギスカン』に行って、柔らかい羊肉を食べる。それはもう美味しくて。

金丸:三國少年にとって、肉といえばジンギスカンだったんですね。

三國:そうそう。そんな僕の目の前に、ある日〝ハンバーグ〞なるものが出てきた。「なんだべ?」と思いましたよ。あれって挽き肉だし、ソースが黒いじゃないですか。その頃の僕は挽き肉なんて知らないし、「黒い食べ物は、毒だから絶対食うな」と言われて育ってきたから、直感的にこれは危険だ、と思ったんです。

金丸:子ども心に染み付いていたんですね。黒は毒だと(笑)。

三國:そうですよ。だから、米屋の人たちは、僕にこのハンバーグなる毒を食べさせて、口減らししようとしている、と本気で思いました。当時は不景気だったし。でも周りを見ると、みんな美味しそうに食べている。すごく腹も減っていたんで、恐る恐る箸を入れてみたんです。

金丸:そしたら?

三國:ブワーっと肉汁が出てきて、「ええっ!?」って、びっくりしました。でも恥ずかしくて周りに言えないから、こっそりソースを舐めてみた。そしたら、甘酸っぱい味が口いっぱいに広がって。初めての体験でした。それでみんなの真似をして、ハンバーグにソースをつけて食べてみたら、それはもう未知との遭遇で。

金丸:美味しい、と素直に思えましたか?

三國:美味しいというより、甘酸っぱくて肉が柔らかいことに驚きましたね。だって、ジンギスカンより柔らかいんですよ。噛まなくてもいい。だから、思わずお姉さんに聞いたんです。「これはなんだべ?」って。

金丸:そうか。そのときは、まだハンバーグって知らないから(笑)。

三國:そう、増毛にはなかったから(笑)。それで、ハンバーグだと教えてもらい、私の人生が決まった。「こういう料理を作りたい」と思ったんです。

金丸:運命を変えた瞬間ですね。

三國:純粋に「ハンバーグを作る料理人になりたい」と思いました。すると、お姉さんが「私のハンバーグも美味しいかもしれないけど、『札幌グランドホテル』のハンバーグなんて、私の100倍美味しいのよ」と。

金丸:そう言われると気になります。

三國:ですよね。僕は子どもだったから、『札幌グランドホテル』に行けば、すぐにでもハンバーグが作れると思い込んだわけです。だけど、すぐにお姉さんから「あそこは高卒以上じゃないと入れない」と言われ、無理だとわかった。でも僕の頭の中は、もうハンバーグでいっぱいで。あとはどうやったら入れるかだけを考えるようになりました。

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