
~成長の速度を早めるには、人の何倍も自己犠牲を払うのみ~
フランスの最高勲章を受章。日本を代表する料理人に
金丸:三國シェフのお話を伺っていると、その時その時は先がまったく見えないのに、決断し突き進んでいくことで、ある日突然道が拓けるという感じがします。点でしかなかったものが、その後、線に繋がっていくというのは面白いですね。
三國:振り返ると、とにかく目の前のことを、必死にやってきました。野心とか欲とかなくて、ただひたすらやり続けてきた。だからこそ、今の自分があるのだと思います。
金丸:帰国後は30歳で『オテル・ドゥ・ミクニ』をオープンし、「世界のミクニ」として第一線で活躍されています。今では数えきれないほどの肩書と実績をお持ちですが、なかでも2015年に受勲された、レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ(1802年にナポレオン・ボナパルトが創設したフランスの最高勲章)は、日本の料理人初ということもあって、非常に話題になりましたね。
三國:ありがとうございます。これには実は布石があって、2013年の日仏首脳会談の際、首相官邸で行われた安倍晋三首相とのワーキングランチを任されたのが、きっかけでした。
金丸:あのときは、日本のフランス料理のレベルの高さを全世界に示しました。オランド首相も「安倍首相がフランスにいらした際に、エリゼ宮(大統領府)でどのような料理を出すべきか、直ちに検討に入りたい」とコメントしたほどです。
三國:はじめは当然、日本料理でいくと思っていたんですが、安倍首相から「フランス料理でいこう。三國さん、頼むよ」と言われまして、どうしようかと考えましたね。それで、日本料理も取り入れた7品のコース料理がいいんじゃないかと。和食の料理人や日本で活躍するフランス人シェフ、パティシエなど日仏7人の料理人のコラボレーションということで、『菊乃井』の村田吉弘さんや『エスキス』のリオネル・ベカさんらにご協力いただきました。それに、オランド大統領と安倍首相は同じ1954年生まれなので、その年の最高級のデザートワインを、ソムリエの田崎真也さんに選んでもらいました。
金丸:そういった経緯もあっての受章だったのですね。
三國:安倍首相もその後すぐにエリゼ宮に招待されて、おもてなしを受けたそうですよ。
金丸:食事やおもてなしが外交に影響するというのは、いいお話です。
三國:フランスの歴史の大半は、そういう部分で成り立っていますから。
2020年に向けて日本の食文化を伝える役割
金丸:三國シェフは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにも関わっていらっしゃいます。日本の食文化の多様性を世界にアピールする最高のチャンスですね。
三國:そうですね。オリンピックに関する食は基本的に、すべて日本産の食材で賄わなければなりません。しかも、オーガニックに準ずる事という条件がついている。非常にやりがいがあるし、これから楽しみです。ちなみに、1964年の東京オリンピックでは、村上料理長が選手村の料理長を務めたんですよ。
金丸:それはまた縁が巡りますね。
三國:当時集めたシェフは約400人、ロンドンオリンピックは800人。2020年には1500人が必要だと言っているので、すでに全国各地で勉強会を始めています。
金丸:日本流のおもてなしで、世界を魅了してほしいです。最後に、今後の夢を聞かせてください。
三國:子どもたちへの食育を、ライフワークにしていきたいですね。実は16年前から「KIDSシェフ」という、子どもたちの味覚を育てる教室を開いているんです。子どもたちと一緒に地元の食材を使って、コース料理を作ったりして楽しいですよ。もっと全国の学校を回って、味覚や食の大切さを伝えたいですね。それに食育の原点って、やっぱり感謝の気持ちじゃないですか。食育を通じて、子どもたちに思いやりの心が育ってくれればいいなと思っています。
金丸:食は人生を豊かにしますからね。
三國:あとは、常に自然体でいたいなあと思います。私の場合、欲を出してああしよう、こうしようと思うと、大抵失敗しているんですよね。なのでこれ以上、地位が欲しいとかお金持ちになりたいとか、そんなことは望まないようにしています。
金丸:目の前のことに一生懸命取り組むことで、自ずと道が切り拓かれていく。まさにそれを体現されている生き方だと思います。同じ時代の変化の中で、私も前だけを見て突き進んできたので、共感するところがたくさんありました。本日は誠にありがとうございました。