由香の秘密 Vol.1

由香の秘密:SATC好きの女がモテないなんて、嘘。港区男子を手玉にとる女の言い分

中途半端な男と遊ぶくらいなら、家で海外ドラマを観る方がずっと楽しい


結城くんが帰ったのは、夜の10時近くになってしまった。

日が暮れるにつれて段々と男の顔になっていく結城くんを眺めるのが面白くて、つい話し込んでしまったからだ。でも、彼が恐る恐る私の手に触れたとき、何の芸もないその行為に、急に気持ちがシラけた。

そもそも、何かさせてあげる気など、これっぽっちもなかったのだが。

まだダンボールが残る部屋は乱雑だが、私は新居が気に入った。広々としたリビングに高級感を与えてくれるカッシーナのソファと、フランク・ロイド・ライトのタリアセン。

どちらも、かつて新婚だった頃に、元夫が私の我儘に付き合い購入してくれたものだ。

結婚相手への気持ちが冷めてしまったことも、我慢できずに離婚したことも、どちらも後悔などしていない。

その都度都度で、私は精一杯自分に正直に生きてきただけであり、悪いことをしたとか、間違ったことをしたとも思っていない。

新しい部屋を見渡しながら、自分の現状を冷静に考えてみる。

私はバックオフィスだが外資金融に勤め、平均以上の収入があり、離婚時の財産分与でそれなりの額を手にした。

小さい頃からバレエを習っていたおかげで、体力や健康には自信があるし、30歳を過ぎても身体のたるみや老化は感じられない。

何より、バツイチになっても、男の人たちは相変わらず、私にとても優しかった。


新しい部屋で、テレビをつける。

新居を自分の城のように心地よく整えて、ゆっくりとドラマを観るのを、ずっと楽しみにしていた。中途半端な男と中途半端なデートをするくらいなら、海外ドラマを観るほうが、断然に有意義で至福の時を過ごせる。

周りの女たちは婚活に奮闘していたり、港区で激しくマウンティングし合ったり、恵比寿で男漁りに精を出したり、実に忙しそうだ。

嫌味ではなく、私はもう、そんな世界には飽きてしまった。

高校時代は慶応幼稚舎の御曹司と付き合い、大学時代はミスター東大の素敵な彼と、経営者のオジサンとの同時進行を楽しんだ。(自分でもかなり器用な時間を過ごしたと思う)

社会人になると、社内の上質な男の子たちが、より取り見取りだった。そして、若手の大御所と言われるような同業の男と結婚し、最終的にはすべて手放した。

「私は、退屈することが一番恐ろしい」

これはマリー・アントワネットの言葉だが、過不足なく満たされた女にとって一番の恐怖は、「退屈」することだと思う。

恋人も結婚も、いったん手に入れてしまうと、たちまち「刺激」から「退屈」へと早変わりした。

私は大昔のフランスの王妃に、大いに共感する。

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