
硝子の少年:男なら誰にでも、忘れられない女がいる。
「私、普通の大学生とは、付き合わないんです。」悪女と定評を得た一言
エリカも同じ上智に通っていて、サークルの集まりには義理程度にちょくちょく顔を出していたが、優先順位は明らかに低そうだった。
彼女が気まぐれに集まりに顔を出すと、サークルのメンバー(特に男たち)は一瞬で色めき立ち、彼女をチヤホヤ持てはやす。しかし、僕たちのような同年代の男たちに対して、エリカは小馬鹿にした態度を取るような節があった。
「ごめんなさい。でも、私、普通の大学生の男の子なんかとは、付き合わないんです。」
サークルで一番人気のある4年生の先輩が、エリカに告白しフラれたことがある。一流商社に内定しており、歴代の彼女の中には読者モデルもいたと言う、サークルの男たちが皆手本にするような先輩だった。
「普通の大学生なんかとは付き合わない」
というエリカの刺激的なセリフは、瞬く間にサークル内に広がり、彼女は「悪女」として定評を得るようになってしまった。男たちからは敬遠され、女たちからは嫉妬される。
その事件をきっかけに、エリカのキャラはそんな位置づけとなったが、本人はそんな周囲の評価を気にする素振りは見せず、やはり付かず離れずと言った感じで、サークルとの交流を持ち続けていた。
相手は芸能人に、スポーツ選手。美貌のエリカを取り巻く、煌びやかな世界。
「あの女、相当ヤバいらしいぜ。」
あるとき、瑛太がエリカについて、そう語り始めた。
「...なんで?」
「芸能人とか、スポーツ選手とか、経営者とか、そういうバブった男とばっかり遊んでるらしいよ。“学生”って感じじゃ、ないもんな。」
瑛太いわく、エリカは、西麻布や六本木といった、一定以上のランクの大人が集う遊び場に顔を出し、夜な夜な遊び呆けているとのことだった。
また、彼らが差し出すタクシー代という名の小遣いで、一般OL以上の収入があるとも言った。
瑛太は、エリカの遊び相手だと噂の、誰もが知っている有名野球選手や、若手俳優の名前を挙げた。
彼女の美貌がそんな一流の人間にも通用するのだという事実は、僕を落ち込ませると同時に、「やっぱり」と、何となく誇らしいような、不思議な感情も湧かせた。
いずれにせよ、彼女がサークル内の男を相手にしないのは、当然の話だったのだ。
◆
しかし、出会いは突然に訪れた。
僕はある日の帰り道、学内の物陰で、エリカが一人携帯を握りしめ、小さくうずくまっているのを発見した。ほとんど話したこともない彼女に声をかけるのは躊躇われたが、さり気なく近くを通ると、彼女は急に顔を上げた。
「あ...、潤くん......だっけ?」
彼女の美しい瞳が赤く潤んでいたこと、白い頬が涙に濡れていたこと、そして、彼女の口から僕の名前が出たこと。そのすべてが、衝撃的だった。
そしてそれが、僕とエリカの、奇妙な関係の始まりだった。
次週11月25日(金)更新
潤とエリカは、ひょんなことから距離を縮めていく。しかしそれは、辛い恋の始まりとなる...!
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