2016.11.12
25時の表参道 Vol.125時の表参道。
港区でありながら、まるでそこだけ取り残されたかのような、深い静寂が流れている。
ブランドショップや飲食店が立ち並ぶ表参道通り、青山学院大学がある青山通り、そして西麻布へと続く骨董通り。
昼間は多くの人で賑わうが、深夜になると、隣の六本木とはまるで違った景色を見せる。
広告代理店勤務のコピーライター・フミヤ(25)は、深夜の表参道通りを歩きながら一体何を思う?
「手つないでもいい?」静寂に満ちた南青山五丁目交差点での、甘く危険な囁き
ここは、東京のブラックホールだ。
25時の表参道通りを歩きながら、フミヤは考える。
ハマるとなかなか抜け出せない、まるで静香さんのようだ、とも。
◆
「ねぇフミヤ君。手つないでもいい?」
11月中旬の金曜日。南青山五丁目の交差点で、静香さんは悪いことを企んでいる子供のような顔で、僕に問いかけた。
その日は西麻布で開かれた会社の歓送迎会の帰り。気付けば2人で骨董通りを歩いて青山の方まで来ていた。
「私は最初から、あなたのことを狙っていたのよ。」
静香さんは後に冗談か本気か分からないような微笑みでそう言ったけれど、真実のほどは分からない。ただ単にそういう気分だったのかもしれない。
まだ喧騒が続く西麻布から青山のほうへ歩いていくと、どんどん静寂が深まって、何だか不安な気持ちになってしまった。その表情を見て、静香さんはこう言った。
「そんな不安そうな顔しないで。西麻布とか六本木は騒がしくて嫌いなの。」
まるで懇願するかのような口ぶりは、一回り上の女性とは思えないくらい可憐だった。
その日は結局、家に帰らなかった。
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