SPECIAL TALK Vol.25

~若い世代は過去にとらわれないでグローバルな視点を持つこと~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。神戸大学工学部卒業。1989年起業、代表取締役就任。規制改革推進会議議長代理、未来投資会議構成員、働き方実現改革会議議員、経済同友会副代表幹事、NIRA代表理事を務める。

いま学生に伝えたいことは視野を広く持つこと

金丸:それにしても、柳川教授のような、いわゆるエリートの経歴でない方が東京大学にいらっしゃるのは、非常に嬉しいです。日本も捨てたものじゃありません。

柳川:確かに私のような経歴は珍しいですよね。ただ、東大の特に経済学部は実力主義で、業績評価の比重が高くなっています。もはや出身大学や経歴は関係なくなっていますし、採用も極めてアメリカ的です。

金丸:次世代のリーダー像が議論されているなか、東京大学の学生と身近に接していて、何を感じますか? 日本に未来はありますか?

柳川:未来はあると思います。ただ学生にとって、世界でどんな人が活躍して、どんな能力が要求されているのかという情報が、極端に少ないように感じています。

金丸:それは、どういうことでしょう?

柳川:学生たちが考える〝実社会で活躍できそうな人物像〞と実際に社会で活躍している人物との間に、大きなギャップがあるんです。だから、社会に出る上で何が必要なのかを、あまりよくわかっていない。

金丸:今後、個人が社会で活躍するためには、何よりも「好きで得意な道を選ぶこと」が重要だと思います。いま実在する職業が、今後も永続的にあるという保証はどこにもありません。これまでにない職業が出てくることも大いにあるでしょう。だから、誰もがスペシャリティを持たなければならない。

柳川:そうですね。社会にはたくさんの可能性が広がっているからこそ、学生たちにできるだけ多くの情報を与えて、「知らなかったから選べなかった」ということが最小限になるような教育をしていきたいと思います。

どれだけ早く違う世界の存在に気づくかがカギ

金丸:柳川教授が今、若い人に一番伝えたいことは何ですか?

柳川:最も伝えたいのは、今までの日本社会はもう続かないということです。世の中はこれから先の10年、20年で大きく変わり、親世代とは違う未来が待ち受けています。しかし、それをイメージできない学生が非常に多い。自分も親と同じように就職して、定年まで働き続けると漠然と思っています。ですから、未来をしっかりと見据えてほしいですね。東大生の中でも2割ぐらいはすごく多様な価値観を持っていて、世の中の変化を感じているようですが、残る8割ぐらいは、かなり保守的。小さな世界しか見えていません。

金丸:なぜ保守的な学生が育つんでしょうか?

柳川:ひとつは母親だと思いますね。東大の学生はみんな優等生なので、特に男子は母親の言うことをよく聞くんです。母親は50 歳前後の方が多くて、いわゆるバブル世代、専業主婦の方の比率も高いと思います。彼女たちの若いときのイメージを植え付けられ、押し付けられて育ってきているのです。

金丸:大企業に入れば、一生安泰と思えた時代ですよね。若い時代に醸成された価値観って、あんまり変わらないですからね。

柳川:そうなんですよ。自分が若い頃にいいと思っていた会社を息子に託すところがありますね。一方で、息子も母親に喜んでほしいからその会社を希望する、というサイクルが出来上がっています。

金丸:逆に2割のアグレッシブな人たちは、どんな素養があるんですか?

柳川:自分でいろんな情報を集めなきゃいけないとか、あるいは早めに海外に留学しているとか、とにかく普通に生活していると手に入らない情報に接したことがある人たちですよね。この世界には、普段目にしているものと違うものがあるかもしれないことに気づいた、というような既存の価値観を揺るがす体験があると、スイッチが切り替わるようです。とはいえ、8割の保守層もずっとそのままではなく、就職後、自分の可能性に気づく人も多いですよ。

金丸:就職して現実を見たことで気づくと?

柳川:保守的な考えで大手企業に就職し、3〜5年経って、自分は本当はこういうことがしたいとか、こんなところにチャンスがあると気づく。そうして、会社を辞めて起業するケースが増えていますね。

金丸:それは頼もしいですね。

柳川:私もいい流れだと思っています。経験ゼロでいきなり会社を立ち上げるのは、リスクが高いですし、日本の社会において「大手企業に5年勤めていました」という経歴は、決して悪いことではないですからね。

金丸:昔に比べて、そうやって気づきを得て、行動を起こす人が増えているのですね。

柳川:そうですね、結構相談に来ますよ。まずは、自分が何をやりたいのかをしっかり見極めなさい、と伝えます。そして「とりあえずフィンテックをやりたい」という相談には、「落ち着け。ブームに踊らされるな!」とたしなめます(笑)。

金丸:東大生にかかわらず、学生にはもっと回り道をして、いろいろな経験を積んでもらいたいと思います。様々な環境に身を置いてきた柳川さんが、東京大学の教授になっているという事実が、時代の変化そのものでしょう。日本独自のレールに乗らず、独学でここまでこられたのには、頭が下がります。時代が大きく変わろうとしている今、やるべきことは多いですね。本日はお忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました。

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