代々木上原の女 Vol.1

代々木上原の女:26歳、手取り18万の損保OLが違和感を覚えた“身の丈に合わない”港区での生活

東京都港区。

刺激的なその街で、「もっと上の自分」を常に夢見て追い求める。一方で、こんな疑問を持つこともある。

−「もっと上の自分」を目指すのが、真の幸せなのだろうか?−

日当たりの良い静かな住宅街の中、朝起きると目の前には緑が生い茂っている。朝食は、近所で買った美味しいパンを、大切な人とゆっくり食べる。

一見何でもないような日常に、真の幸せがあるのではないだろうか?

埼玉県出身、大手損害保険会社勤務のユリ。可愛らしい外見とは裏腹に強い自立心を持った彼女が、憧れの港区での生活を捨て、代々木上原という地で、迷い、葛藤しながら自分らしさを取り戻す…?


ショップカードの住所を書く手が止まる瞬間


「それではこちらにお名前と住所を書いていただけますか?」

店員がにっこり微笑みながら「Customer card」を差し出した。

日曜日の昼下がり、六本木ヒルズのエストネーション。最初はウィンドウショッピングのつもりが、秋物の目新しさに心を奪われて衝動買いをしてしまった。

名前、ふりがな、性別、と進んでいって、住所を書く段になって手が止まった。半同棲状態である彼の家の住所を書けばいいのか、まだ住民票のある実家の住所を書けばいいのか…。

彼の家は港区南麻布、実家は埼玉県さいたま市浦和区だ。

「お客様、どうされましたか?」

固まっているユリを見て、店員が不思議そうにしている。慌てて埼玉の実家の住所を書き店員に差し出した。

24歳、女盛りのときに得た「港区在住」というカード


丁寧にお辞儀をする店員を背に、居心地の悪い気分で店を後にした。8月の下旬だというのに外の空気はまだ熱く湿っていて、さらに気分が滅入ってしまう。

彼氏である聡の家に“転がり込む”状態で半同棲を始めてもう2年目になる。聡は大学時代のテニスサークルの2期上の先輩。六本木にある外資系の証券会社に勤めている。

社会人4年目で聡の年収は上がり、それまで住んでいた目黒のワンルームの家から南麻布に引っ越した。南麻布のマンションは1LDK、42平米。それまでとは比べ物にならないくらい広く、引っ越しと同時に彼の家へ転がり込んだ。

ユリも社会人2年目で24歳、ちょうど遊びたい年頃だった。聡と一緒にいたい、というより港区に住めるという高揚感の方が優っていた。

それでも一緒に住み始めた最初の頃はちょっとした新婚気分で、2人の仲もうまくいっていた。週末は少し寝坊して『MERCER BRUNCH』やグランドハイアットにある『The Oak Door』でブランチを食べる。それが2人の楽しみだった。

しかし、半年、1年と経っていくと、徐々に歯車が噛み合わなくなっていった。きっかけは大学時代のサークルの同期・玲子に誘われたミッドタウンでのホームパーティーだった。

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