戦闘服がダイアンのラップワンピに変わったとき
玲子は典型的な港区女子。小柄で可愛い系のユリとは違い、長身でモデルのような女だ。玲子とユリは、大学時代のサークルでは人気を二分していた。化粧品会社のプレスをしている玲子は人脈も広く、定期的にホームパーティーや食事会を開いていた。
玲子に誘われたミッドタウンでのホームパーティーは、経営者が中心だからいつもの花柄ワンピで来ないでね、と念を押された。困って玲子に泣きつくと、呆れたようにダイアンのラップワンピースとルブタンの靴を貸してくれた。
いつものアプワイザー・リッシェのワンピースを脱いで来たその服は、体の線がくっきり出て全く落ち着かなかった。が、結果は大成功だった。
普段の食事会では、やけに自信満々な商社マンや代理店の男が「ユリちゃん、可愛いね」と口説いてくるだけだったが、この日は経済的にも精神的にも余裕を感じさせる年上の経営者たちに、1人の女性として扱われた気がした。
何より大切だった、「港区」にふさわしい自分
ミッドタウンのパーティーでの快感が忘れられなくて、それ以来さまざまなパーティーや食事会に顔を出した。
タイトなワンピースやパンツスーツをたくさん買い込み、クローゼットのワードローブはガラリと変わった。家賃や光熱費などの生活費はほとんどかからなかったが、手取り18万の給料はあっという間に失くなった。
どこに住んでいるの?と聞かれた時に「港区」と自信を持って言える自分でいることが何より大切だった。
それでも上を見ればまだまだキリがなかった。私はまだここじゃ終わらない、そんな根拠のない向上心がユリの港区での生活に拍車をかけた。港区で知り合う人は、男も女もいつも「もっと」を欲していた。
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