仕事相手とシャンパンでカジュアルに楽しむお洒落ディナーとは?
「京子さん、これどうですか、『グルメバーガーグランプリ』!」
看板によれば、六本木ヒルズNo.1のハンバーガーを決める夏の祭典とのこと。康介も良く訪れる有名店が軒並み参加しているのだ。
「このダル・マットの激辛バーガー、すっごくおいしそうじゃない?。シャンパンに合いそう!」
(- …あれ、京子さん、デート系の店でもOKなんだ…)
激辛好きでお酒好きな女性には、気を付けたし?
信じられないスピードでシャンパンを飲み干していく京子にあっけにとられながら、康介はひとまず仕事の話を切り出した。
「京子さんって、今の会社いつから…」
「松田君さ、彼女に怒られたりしないの?女性と二人で食事とかしてて」
いきなりの剛速球。普段仕事で見せるクールな京子とのギャップに面喰う。
「いや、彼女は今いないんです。この仕事していたら、忙しくって出会いも何も…」
「でも前の彼女とも忙しいときに出会ったんでしょ?言い訳じゃない?」
ウェイターが運んでくるシャンパンをさらに一気に煽りながら、京子の速球は威力を増していく。
「京子さんこそ忙しいじゃないですか。彼氏、いるんですか?」
「いるよ」
「それより松田君さ、何時でもメール出してくるけど、止めた方がいいよ、みんな動いちゃうから」
「…」
さらにもう一杯のシャンパンに口を付けた京子。
「お待たせしました」
「うわっ、すっごい辛い。超美味しい。これ気分あがるね!」
この頃には、康介は気づいていた。わずかでも、淡い期待を抱いていた自分が愚かだった。
シャンパンは既に4杯目。明らかに酔っぱらった雰囲気の京子は、マシンガンのように康介にきつい質問を浴びせてくる。ハンバーガーの刺激で、康介はなんだか泣きそうになってくる。
「…でも実際、松田君ってさ、絶対モテるでしょ? …カッコいいと思うもん。この前のクライアントの坂田さんも…」
(- ? 今度は持ち上げてくるの? どういうこと?)
「でもさ、さっき私誘うときに「時間余ってるんで」って言ったでしょう。あれはありえないなー、女性を誘うときに!」
もはやサンドバック状態の康介だが、どうやら京子は仕事のイメージと違い、単に姉御肌の元気な女性なだけなのでは?という想いに変わってきた。
「京子さんだって、メンバー怖がってましたよ。あの人3コールで電話でないと、めちゃくちゃ怒るって!」
「当たり前でしょ!出ない電話持ち歩いてどうすんのよ!(笑)」
「僕、京子さんの事、勘違いしてました(笑)。もっとクールビューティーな人じゃないかって!」
「イメージ通りじゃん!」
久々に、陽気なディナーである。夏の夜のハンバーガーもいいものだな、と康介は最後の一口を頬張った。
康介に新たな決意が生まれる。
「京子さん、今日ありがとうございました」
「また飲もうよ。『時間の余った時に』(笑)」
「映画見てきます!」
ハンバーガーのように辛い一日となったが、気分は悪くない。確かに時間が無いなんて言い訳かもしれない。
〝出会いの夏“である。
映画館に向かう途中、再び『グルメバーガーグランプリ』の看板が目に入る。
そこで康介は閃いた。
(-そうか!)