歩きながら、じりじりと美佳に気になることを聞く。
「あのさ、美佳はいま彼氏っていないんだよね?」
「う〜ん…」
え、まさかのリアクション!! 元カレと向こうの浮気が原因で別れてから、もう別の人ができたのか。ひと足遅かった。
「いるといえばいる」
「そっか…。でも、何その言い方?」
動揺を隠せず俺はだまってしまい、美佳も黙っているうちに代々木公園が見えてきた。
「本当に何にも覚えてないんだね」
「何を??」
「西野、この前ふたりで飲んだとき、ベッドで眠りに落ちる前に私に言ったんだよ」
「だから何を???」
「“好きだからつき合ってほしい”って」
ずっと潜伏していた気持ちが、励まされた夜をきっかけに弾けた自覚はあった。一緒にいてこんなに心地よくて、腑に落ちる相手はいないと。でもまさか速攻で伝えているとは自分に驚きだ。まったく覚えていないけれど、その日の夕方目覚めたときにあったのは、二日酔いの憂鬱ではなく、なんともいえない爽快感だった。
「もうね、寝言みたいに落ちる寸前に言っていたけど(笑)」
「それで美佳はなんて?」
「“私も好きなので、よろしくお願いします”と伝えたよ。でもあまりに驚いたからすぐには言えなかった。てっきり西野には彼女ができたと思っていたから。そのあと、西野はただニヤニヤしながら寝てた。だから、その話が現実なら彼氏はいる。ここに」
何て言ったらいいかわからなかった。そのまま200mほどは歩いたと思う。
「手を繋いでもいい?」
かつて手を繋ぐのに許可をとったことはなかったけれど、やっと出たのはそんな言葉だった。
「うん」
「その言葉は本当なので、よろしくお願いします」
「よかった。どうなのかなと私も不安で、会社でもすごく意識しちゃってたよ」
美佳は笑顔でそう打ち明けた。
プレゼンで敗れたこともお酒を飲み過ぎることも好ましくないけれど、それらが重なったことが結局は恋人を作るきっかけとなった。
そうして3カ月が経ち、いざつき合ってみると新鮮なことがたくさんあった。実は美佳は手料理がとても上手だということ、すっぴんだと童顔っぽいということ、クルマの運転が上手いとか、アイロンは嫌々するとか、寝る時に手を上にあげるクセがあるとか、数えあげたらきりがない。
10年以上知っているのに、新しい魅力や意外な一面が次々と湧いてくる。つき合う前は夜に食事やディナーをするだけだったけど、昼に会っても楽しい。やっぱり会話も合うし、逆に何も話さずにお互い本を読んでいる時間をもつこともできる。
この秋には、美佳の34歳の誕生日を一緒にお祝いした。その日は、ふたりの仲が進展する引き金となった、チンザノ アスティで乾杯をした。
「お誕生日おめでとう!」
驚いたのは、この1本は自分にとって飲み慣れたスパークリングワインであるのに、こうしてシチュエーションが変わると味のニュアンスも変わってくるということだった。特に、大事な人の誕生日を祝いながら飲む一杯は格別だ。それは、華やかで、フルーティーで、懐かしくて、優しい味わいだった。
きっとこれからも、こうしてふたりで乾杯するシーンがたくさんあるだろうし、同僚や友人など仲間が加わっても楽しい。それに、遠い将来自分たちの子供と一緒と飲むシーンもあったらいいと思う。歴史あるブランドのお酒を自分の家族と一緒に楽しむ、それは憧れの時間といってもいい。
「ケンカしたり、何かトラブルがあったり、これからいろいろなことが起こるかもしれないけれど、そんなときは“チンチン!”ってこのチンザノで乾杯して仲直りするってどう?」
美佳にそう提案してみた。今年スパークした彼女への恋心を、月日が経ってもこのワインを飲むことで思い出せる気がしたからだ。
「それはいいね。明日を楽しく過ごせるきっかけになる気がする」
美佳はそう言って泡の立ち上るグラスを俺のグラスへと近づけた。
「チンチン チンザノ!」
スキンシップのようなその乾杯は、ふたりの距離を縮める、これからも変わらない挨拶。グラスを重ねるごとに、気持ちも重なる。美佳と一緒に、そんな瞬間をなるべく多く作っていけたらいいと思う。
お酒の履歴書・完
この夏、フルーティな香りと味わいが魅力の『チンザノ アスティ』を楽しむなら六本木の『Gaston & Gasper』にいこう!いま、『チンザノ アスティ』とのコラボメニューも展開中!
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