2016.07.19
お酒の履歴書 Vol.2●前回までのあらすじ
Vol.1ではアラサー失恋女の美佳が登場。お酒が大好きな美佳(33歳)は、失恋をきっかけに会社の同期であり家も近所の西野 純とふたりで飲みに行くようになる。
美佳は少しずつ西野を意識していくけれど、社内恋愛ということもあり、積極的なアプローチはまだしていない。美佳はふたりで行ったビストロで、西野がすすめてくれたスパークリングワインを飲む。そして、また仕事帰りに彼を誘ってみようとぼんやりと考えていた。彼に女はいないと思っていたのだった。
Vol.1:乾杯から始まる恋物語〜アラサー失恋女、美佳の場合〜
意識高い系婚活OL 伊藤明子(化粧品会社勤務・26歳)の場合
飲みレベル ★
20歳 兄の結婚式で初めてビールを飲む。“ちょっと苦いな”というのが正直な感想。
21歳 忘年会でサワーなどを3杯飲んで撃沈。以後、飲む際はカルーアミルクがお決まりに。
22歳 カシスオレンジは大丈夫だと知る。
23歳〜24歳 お酒を飲まない彼氏とつき合い、ふたりで紅茶にはまる。
25歳 ウーロンハイ・デビュー(薄め)。
26歳 ある男性がきっかけで、初めてスパークリングワインを美味しいと思う。
デートの待ち合わせが20時って、少し遅いなと思った。さらにその直前にLINEで、「ごめん、仕事がおしちゃってて少し遅れます」と連絡が入る。
初デートなのに…。デートの遅刻はルーズさの顕れのような気がする。仕事じゃしょうがないけど、逆に嫌かもしれない。“仕事で遅刻”は何回も繰り返されそうだからだ。
そう妄想していても、その人、西野さんのキャラはまだ掴めていない。広告代理店勤めの33歳で独身、彼女ナシ、築地在住、ビールが好き、お酒を飲まない女性への気配りもできるってことくらい。
そもそも、3カ月前に合コンで一度会っただけだから、ほぼ他人だ。実際、西野さんからの誘いも他人前提だった。
“明子さん、こんにちは。お元気ですか? 見知らぬ者からLINEがきたと思うかもしれませんが、まったくの他人ではありません。以前、月島のもんじゃの会でお会いした西野です。西野 純といいます”
その合コンでの“もんじゃ”と名付けられた6人のグループLINEは社交辞令的に全員が挨拶した程度。直後にうちひとりから誘われたけれど、ヘビースモーカーだったからお断りした。
そのあとはすっかりもんじゃ合コンのことも忘れていたし、彼の顔も忘れていた。
背が高かったということと、私に対しての気配りは覚えている。もんじゃ屋さんで、みんなが当たり前のように最初の乾杯にビールを頼むので、私も最初は合わせて頼んだ。
でも、実はあまり飲まない。お酒が体質的にNGなわけじゃないし、美味しいと思うこともある。でも、強くはないし、なにより馴染みがない。
飲み慣れないのとあまり強くないこともあって、私のお酒の減りは特段遅かった。ガブガブ飲む女友達と一緒だったから、いっそうスローに見えたのだろう。西野さんはそれに気づいて「何かお茶とか頼む?」と声をかけてくれたのだった。
そのことが記憶に残っていたのと、そろそろ本腰で婚活をしようと思っていたところだったから、西野さんの食事の誘いをすんなり受けた。
いい会社に勤めている人だし、顔は覚えていないけど、お見合いのつもりで行ってみようと。それに3カ月ぶりの突然の誘いは、ちょっとスリリングで女心をくすぐるものだった。
なのに、遅刻か…。私はひとり指定された『グランド ハイアット 東京』の『フィオレンティーナ』で待つ。
その辺のカフェで勝手に待つのに、自分の遅刻を気にしてか、贅沢な場所で待たせたのかもしれない。20時を過ぎると店はディナーのお客も多くて、私の後ろの席のカップルは、ワインも随分進んでいるようだ。
先ほどまでは、「休みの日は何をしているの?」という会話から野球の話をしていたのに、それから数分後には
「札幌ドーム、一緒に行こうか。野球見て温泉泊まって」
なんて女性が口説かれている。
「私、お部屋にお風呂がついている温泉って、あんまり好きじゃないんです」
と、女性は否定はしない返答だ。
ふたりはお互いにホロ酔いで、まったりいいムード。私も飲む女性だったら、男の人ももっと口説きやすかったりするのかな。初デート(?)で温泉に誘ってくるエロオヤジは嫌だけど…。
そんなことを考えていたら、「ごめん!遅れちゃって!」と見知らぬ男性、もとい西野さんが現れた。
「あ、西野です。お久しぶりというか、初めましてというか」と、はにかむように笑っている。
そして、「これお詫びに」と、『フィオレンティーナ』の包を私に差し出してきた。中身はクッキーみたい。
「いま買ったんですね(笑)」
「そう、気づかれないだろうと思って(笑)」
「考えごとをしていて、全然見てなかったです。なんだか気を使わせちゃって、すみません。ありがとうございます!」
私たちは西野さんが選んでくれた『トリプルアール』に向かった。それは私の「お肉が食べたい」というリクエストのもとに選ばれた六本木の店だった。店は赤を基調とした内装で、外国人のお客も多くて、なんだか海外のバーのような雰囲気。
(※『トリプルアール』は、現在閉店しております。)
「ここはね、和牛がリーズナブルに食べられるからよく来るんだ」
と言いながら、西野さんはワインリストをちらちら見ている。
この記事で紹介したお店
フィオレンティーナ/グランド ハイアット 東京
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