2016.04.26
新米弁護士 倉木麻美 Vol.4
「えぇ!? なんでわかるの?」
勘のいい雄介に言い当てられて、思わず本音が出てしまう。
麻美は今の状況をありのまま伝えた。雄介に頼るのは、これが最後と決めて。
純也のシンガポール赴任が決まったこと、任期は短くても5年。本人は長く向こうで働きたいと思っていること。
そして「ついてきてほしい」とプロポーズを受けたこと。ついていきたい気持ちはあるが、血を吐くような努力をして掴んだ「四大法律事務所所属の弁護士」という肩書きを手放す決意ができないでいることも。
麻美が一気に話し終えると、雄介の柴犬・次郎に似た笑顔がそこにあった。
「麻美は、本当極端だよな〜。どうして弁護士を続けるか、結婚するかの二択みたいになってるの? シンガポールオフィス勤務を希望する手もあるし、それが無理でも現地のロースクールやビジネススクールで勉強して、それから現地で働くという選択肢もあるでしょ。そこでキャリアを積んで、また東京に戻ってくる時が来たら、やりたいことにチャレンジすればいいじゃん。」
続けて、ハッとするほど優しいまなざしで「麻美。」と語りかける。
「弁護士はどこでだって続けられるけど、純也さんはひとりしかいないんだよ。」
自分にとって一番大切なもの……麻美が最後に手に入れた「小さな幸せ」とは
雄介に最後に言われた言葉を思い出しながら、夜道をひとり歩く。
思えば、この8年間、どれくらい純也に支えてもらっていただろう。
会社を辞めて弁護士を目指すと伝えた時、親兄弟をはじめ、周囲は大反対だったが、純也だけは応援してくれた。司法試験前、プレッシャーに耐え切れず、八つ当たりしてしまった時も黙ってそばにいてくれたし、「(合格発表を)怖くて観に行けない」という麻美を引っ張って、法務省まで連れて行ってくれたのも純也だ。
麻美の受験番号を見つけると「やったーーー!!」と、掲示板の前で恥ずかしくなるくらい、喜んでくれた。優しい思い出に包まれて、胸がいっぱいになる。
―――純也がいない人生なんて、考えられない。―――
今度は、私が純也を支えたいと思った。きっと、仏のように優しい彼の、最初で最後の我が儘だから。
そうと決めたら、すぐに決意を伝えたい。純也にLINEで「今から行ってもいい?」と送る。
「そうだ!」
麻美は何かをひらめき、コンビニへと駆け込む。アルコール売り場に行くと、すぐにブルーのお酒が目に入った。瓶を2本手に取ると、ここ数ヶ月の思い出が頭をよぎる。ひとりでいるのに、思わずニヤけてしまう。
振り返れば、弁護士になってから、いつだって「小さな幸せ」の瞬間にはこれがあった。
鬼上司・吉見に、はじめて修正なしでドラフトを提出していいと言われた日も。
雄介の想いに触れて、不覚にも愛おしいと思ってしまったあの夜も。
セレブ主婦達との女子会で、「麻美は私達の希望なんだから!」と温かく励まされた日も。
麻美にとって『氷結プレミアム』は、紛れもなく幸せのそばにあるお酒になっていたのだ。だからこそ、今日は愛しい純也とふたりで飲みたい。
だって、今日はふたりの記念すべき日になるから。
急いで、純也の家へと向かう。その後ろ姿に、もう迷いはない。
【完】
【新米弁護士 倉木麻美】の記事一覧
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