2016.04.19
新米弁護士 倉木麻美 Vol.3
(前回までのあらすじ)
32歳・独身の倉木麻美。有名国立大学卒業後、大手飲料メーカーに就職したが、その向上心の高さから弁護士を目指し、現実のものにした。しかし、晴れて弁護士となった麻美を待っていたのは、理想とはかけ離れた地味でハードな日々。何度も挫けそうになる麻美を支えているのがメーカー時代からの恋人・純也の存在だった。
少しずつだが弁護士として自信をつけはじめた頃、司法修習時代の同期で、仕事上での麻美のよき理解者だった雄介に突然「ずっと好きだった」と告げられる。心許せる男友達と長年の恋人の間で揺れ動く麻美。そんな中、大学時代の同期から、ホームパーティのお誘いが。「女の幸せ」を掴んだ友人を前に、社会で戦い続けてきた麻美の価値観に変化が起こる!?
第1話:憧れの世界に飛び込んだアラサー女子が直面した試練とは?
第2話:交際8年の彼と同業の男友達。天秤にかけて、上回るのは? ここ東京には仕事を生きがいにし、キャリアアップし続ける女性がたくさんいる。このお話は、男性主導の法曹界に足を踏み入れた、女性弁護士の光と陰を描く、ラブ&サクセスストーリー。
優雅なマダム生活を楽しむ友人に、心がささくれ立つ
最近、女友達とのグループトークが正直しんどい。
メンバーは、大学時代の同級生4人。エリカ、里香、舞子だ。卒業後は、それぞれ一流企業に就職したが、結婚を機にキャリアをあっさり捨てて家庭に入った。よほど暇を持て余しているのか、連日主婦トークで盛り上がっている。そんなLINEの濁流を見て、独身の私の存在は確実に忘れられてるよね……と苦笑する。
――ベビーカーは「Bugaboo」がおすすめ♡――
――「PETIT BATEAU」の新作、すごいかわいいよ!――
――今度、表参道でママ友とランチなんだけど、おすすめのお店教えて♪――
ベビーカーも子供服も、ママ友とのランチ場所も、麻美にとってはどれも対岸の火事。正直、どうでもいい。それより寝たい。デスクに置いたスマホが光るたびに「こっちは仕事してるのに」と毒づきたくなる。
それにしても、今日はやりとりが頻繁だ。見るたびにメッセージの件数が増えていく。たまらず、パソコンで「グループトーク 角が立たない 退会 方法」と検索していると、エリカのメッセージが目に留まった。
――みんなに報告したいことがあります♡――
彼女は昨年、8歳上の外資系コンサルティング会社勤務の男性と結婚したばかり。新婚の報告といえば、妊娠だと相場は決まっている。ほら、やっぱりそうだ。さすがの麻美もスルーできず、仕事を中断して祝福のメッセージを送る。
――おめでとう! エリカもママになるんだね。赤ちゃん産まれたら、お祝いさせてね。――
麻美の中で、すっかり定型文となっているお祝いメッセージを送る。すぐさま、返信が来る。
――よかったら、私の家で集まらない? 出産前にみんなに会いたい!――
妊婦の願いをどうして断れようか。里香と舞子は、ノリノリで応じている。
(新しい洋服を買わなくちゃ。髪もボサボサだし、ネイルも予約しないと……)
激務に追われ、クライアントに軽視され、鬼上司の嫌味に耐えて。満身創痍で働く麻美に「自分磨き」という命題が重くのしかかる。睡眠時間を削って、サロンに駆け込む自分は一体何なのだろう? なんだか自分が滑稽でかわいそうに思えてきた。……けれど、それを人に悟られてはなるまい。
「女の幸せ」を掴んだ人に、かわいそうな女だと思われたくない。
それだけは、働く女のプライドが許さない。
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