セレブ主婦 vs 働く女の、静かな闘いの行方は?
(カンペキに武装したから、大丈夫……。)
そう言い聞かせて、背筋を伸ばしてエントランスに入る。
今日に至るまで、麻美は涙ぐましい努力をした。『エストネーション』で流行りの服を揃え、ボロボロだった肌も、エステでなんとか甦らせた。美容室では一番高いヘアトリートメントを受けて、死にかけていた髪をツヤツヤに仕上げてもらい、晴れの舞台で履こうと決めていた『クリスチャン・ルブタン』だって今日のために下ろした。
高層階専用のエレベーターで25階まで上がり、インターホンを押すと、カジュアルながらも一目で上質さが分かる、リラックスした格好のエリカが出迎えてくれた。リビングの扉を開けると、20分前に到着したという舞子と里香が『アルフレックス』のソファに腰掛けていた。
食卓には、豪華なメニューが並ぶ。マッシュルームのサラダ、白身魚のブレゼ、牛肉のタリアータ、塩レモンのクリームパスタ……。どれも、白いフリルのエプロンを身につけたエリカの手作りだ。
まずは、シャンパンで乾杯。エリカと授乳中の里香は、ジンジャーエールをグラスに注ぐ。
「エリカ、おめでとう!」
「ありがとう♡ 久しぶりにみんなに会えてうれしい〜!」
料理を食べながら、エリカの近況報告を聞いた。
「旦那の両親も妊娠をすごく喜んでくれて、ベビー服を大量に買ってきてくれるの。まだ生まれてもいないのに。」
「旦那が掃除・洗濯は、ハウスキーパーさん任せでいいよって。私はやりたいんだけどね。」
「旦那がサプライズ好きで、この間もジュエリーをプレゼントしてもらったの。」
エリカは幸せを隠すことなく、容赦なく「女の幸せ」をまき散らす。 エリカは、西麻布に新居を構えていた。Googleマップで検索して、たどり着いた先には、見るからにハイグレードなタワーマンションがそびえ立っていた。一瞬、足元がすくむ。
「エリカはいいなぁ〜。」
「いい旦那さんと結婚できて、本当に幸せ者だよね。」
そんな風にエリカを羨む舞子と里香も、麻美に言わせれば、十分セレブ主婦だ。
ソファに置かれた舞子のバッグは『セリーヌ』のものだし、里香がさりげなく着ているシャツは『シャネル』のもの。
月1回は子供を実家に預けて旦那と星付きレストランでデートをしているという里香の手には、控えめながらも綺麗なネイルアートが施され、とても子育て中の女性には見えない。そこには、麻美に最近不足している”心の余裕”が確実にあった。
完璧に「武装」したはずなのに、自分がいつの間にか負け犬気分になっていることに、麻美は気付いた。
「みんな、女の幸せを満喫していて羨ましいよ」
嫌味とも本音ともつかない言葉が思わず口をつく。麻美の言葉に、3人は顔を見合わせた。
「なに言ってるの。この中で一番輝いているの、麻美じゃない」
「えっ?」
エリカの意外すぎる言葉に、麻美は目を丸くした。