新米弁護士 倉木麻美 Vol.4
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  • 新米弁護士 倉木麻美 最終話:仕事と結婚。究極の選択を迫られ、キャリア女子が下した決断とは?


    キャリアと結婚…どっちも大切。ゆれ動く女心の向かう先は……?

    「倉木、なにやってんだよ! ドラフトの回答まだなのか? 先方から催促来たぞ。」

    麻美の職務室に入って来るなり、吉見の罵声が飛ぶ。

    「すみません。あと1時間で提出できます!」

    「正午までに作成しろって言ったよなぁ。ったくもう……。」

    大股でズカズカと部屋を出ていく。怒っている時の歩き方だ。

    純也から転勤を告げられて以来、どうにも仕事が手につかない。急ぎのドラフトをなんとか作成して、デスクでひと息つくが、考えるのはやはり、あの夜のことだ。

    別れ話でなくてよかった。心底ホッとした。だけど正直にいえば「なぜ、今なの?」と運命を恨んでしまう。
    勉強漬けの毎日からようやく解放されて、憧れの事務所に入所して、任せてもらえる仕事も増えて。これから、渉外弁護士としてのキャリアを積むはずだったのに。

    たしかに、エリカ達との女子会で「幸せな家庭もつかんでみせる!」と心に決めた。ただ、それは直近、いますぐの話ではなかった。純也の転勤があと少し、もう少し先だったらよかったのに。

    ふと、雄介の顔が頭に浮かぶ。もう何年も行き詰まった時は全力で頼っていただけに、反射的に思い出してしまう。どのみち、きちんと気持ちを告げないといけないと思っていた。大切な存在だからこそ、このままフェードアウトさせるわけにはいかない。

    ―――久しぶり。今晩、会えない?―――

    メッセージを送ると、すぐに「今日は早く終わりそうだよ。上原で大丈夫?」と返信が来た。テンポよくメッセージをやりとりし、22時にいつものお店で待ち合わせすることが決まった。

    約束の時間より、20分ほど早めに着いたはずなのに、雄介の姿はすでにあった。メニューを見ながら、恒例の近況報告をする。しかし、あの話題に触れないようにしているからか、言葉が上滑りしているような気がする。

    2杯目のお酒がテーブルにきたら言おう。そう心に決めていた。

    「あのね……。この間のことだけど、気持ちはすごく嬉しい。雄介は私にとって本当に大切な人だよ。支えてくれて感謝してる。だけど今の私がいるのは、純也のおかげなの。純也はなくてはならない存在というか……。」

    純也への想いを告げるのが、いたたまれなくなってつい歯切れが悪くなる。

    「そんなことわかってるよ。ただ伝えたかっただけだから。」

    と、雄介の答えはそっけない。だが、その目の奥にたたえられた深い哀しみを見ると、思わず胸が苦しくなる。好きだった、柴犬・次郎に似たあの笑顔はそこにはない。

    「ごめん。って、謝るのも変だよね。」

    はぁ……。抑え切れず、深いため息をついてしまう。悲劇のヒロインを気取るつもりはないが、大切な人の気持ちに応えられないのは、どうしたって悲しい。

    ピンと張りつめた無言の時間を破ったのは、雄介だった。

    「麻美さ、勘違いだったらごめん。純也さんと何かあった?」

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    新米弁護士 倉木麻美

    ここ東京には仕事を生きがいにし、キャリアップし続ける女性が沢山いる。今回の物語の主人公は、有名国立大学を卒業し、大手飲料メーカーに就職したが、
    そのたぐいまれなる向上心の高さがゆえに、弁護士を目指し、それを現実のものにした32歳・独身の倉木麻美。

    男性主導の法曹界に足を踏み入れた女性弁護士の光と影を描く、ラブ&サクセスストーリー。

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