会うたびにボロボロの麻美に、「今が頑張り時だよ。これを乗り越えればラクになれるよ」と優しく手を差し伸べてくれる。麻美にとって、純也は精神安定剤。神様、仏様、純也様なのである。
もはや生理的?に嫌な上司との仕事に訪れた一つの光明
今日も、吉見に頼まれてドラフトを提出した。学生時代から興味のある分野に関係する内容だったので、判例と文献のデータベースを徹底的に調べて、自分なりに頑張ったつもりだ。
夜、デスクで作業をしていると、電話が鳴った。相手は吉見で「部屋にくるように」と早口で告げられた。
「またダメ出しされるんだろうな……。」
憂鬱な気分で、吉見の執務室へ向かう。前回は全くダメだとレポートを床に叩き付けられた。前々回は、同僚弁護士の前で説教。ドアの前でひと呼吸して部屋に入ると、作業中なのかパソコンから目を離さない。これから始まるであろうダメ出しに怯える麻美に、吉見は素っ気なく言った。
「あれで、先方に返信しておいて」
「……は、はひっ?」
一瞬、何のことか理解ができず、変な声が出た。戸惑う私を見て、吉見は言った。パソコンから、こちらに視線を移して。
「だから、あれでOK。返信しておいて、って言ったの。耳遠いんじゃないの?」
「……あっ、わかりました。ありがとうございます!」
ビックリした。弁護士になって、はじめて修正なしでドラフトが戻ってきた。しかも、先方にこのまま提出していいと。安堵のあまり、全身から力が抜けていく。自席に戻り、言われた通り、返信をする。時間は21時過ぎ。修正作業のためにとって置いた2時間がポッカリ私のものになった。このまま行けば24時前には帰れそうだ。
ふと、今日ほとんど何も食べてないことに気付いた。昼過ぎに机に入っていた、チョコのお菓子をつまんだだけだった。もう一踏ん張りのために、少しお腹を満たそう。それに、少し夜風に当たりたかった。
夜道を歩いていると、どんよりした自分の心に一筋の光が差しているような気持ちになった。嬉しいというより安堵といった方が的確だ。コンビニに入り、ぼんやりドリンクを選ぶ。目を横にスライドさせていくと、いつの間にアルコールコーナーの前にいた。お酒? いやいや。……でも、今日はいいかな?いいよね……。こんな日だし、先輩だってたまに自分の執務室で飲んでるみたいだし。
ひと際目立つブルーのボトルが目に入った。
「氷結……プレミアム? あ、あの氷結か。でもちょっと違う? 今日発売したばかりなんだ……。シチリア産プレミアムレモンだって。これ、試してみようかな」
プレミアムという言葉が、今の自分の小さすぎる幸せにぴったりハマる気がして。そのままお惣菜コーナーに行き、健康志向なサラダを買う。少しだけ、女子力を取り戻す活力が戻ってきた。
自分のデスクに座り、矢継ぎ早に瓶の蓋を開ける。普通の氷結とは明らかに違う、ホンモノのレモンのような芳香が、自分が女子であることを容認してくれているようだった。「お疲れさま」。そう自分に小さくつぶやく。グイっと角度を付け、ノドに液体を流し込む。口中に広がるレモンの香りと、頬をつんざくような炭酸が心地いい。
「美味しい……」
ニキビひどいけど、少し太ったけど、明日も頑張れる気がしてきた。
私はまだ大丈夫。しっかり、前を向いて。
【第一話完】
●次回予告(4月12日公開予定)
休日出勤を余儀なくされるほど激務が続く麻美。そんな彼女に舞い込んで来たのは、司法修習時代の同期である雄介からの誘いのLINEだった。純也ひと筋だったはずの麻美に巻き起こる意外すぎる事態とは!?
*麻美が自分へのご褒美に購入した「キリン 氷結®プレミアム」(4月5日発売)の詳細はこちら
INFOMATION
*あのフリーアナウンサー・田中みな実さんが「キリン 氷結®プレミアム」を試飲した感想はこちら
Photos/Yoshiaki Tsutsui, Styling/Shinya Nakanishi, Text/Momoko Hirata@verb
衣裳協力
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