女優とディナー Vol.4

女優とディナー:「橋本マナミ=愛人」に異議を唱える”非モテ”作家の主張(1話読み切り)

そしてディナー当日。薄暗いバーの階段を上ってきた橋本マナミは強烈な色気を放っていました。しかも、彼女の演技に対する純粋な姿勢を知っている私にとって正視できないくらいのすごい魅力になっており、そのとき心から


店の下見をしておいて良かった


と思いました。数日前、『ハ月の鯨』に単身乗り込み、あらかじめ店のメニューを写真に写し、どの映画のカクテルを注文してもその映画の演技雑学を放り込める準備をしておいたのです。

下見で水野氏が撮影しておいたカクテルメニュー。ちょいピン甘は緊張の現れか?!

カウンターの席に座った私は、震える手でメニューを掴み、橋本マナミに向かって差し出しながら言いました。

「このお店、カクテルのメニューが全部映画のタイトルになってるんですよ」

すると彼女は「面白いですね!」と顔の前で両手を合わせ、目を輝かせました。

(よし、いける!)

最初の関門をクリアした私は、彼女がどの映画のタイトルを言うかに耳を集中しました。と、そのとき、突然バーテンダーがこう言ったのです。

「メニューにないものでも、映画の内容をヒントにして作れますよ」

(おい! 余計なアドリブはいらないんだよ!)

台本にない流れに焦り始めた私ですが、橋本マナミの言葉でさらにテンパることになりました。

「じゃあ、『愛を乞うひと』ってできますか? 原田美枝子さんの演技がすごく好きで・・・」


聞いたことねえわそんな映画!


するとバーテンダーも「すみません、知りません……」と頭を下げることになりました。結局彼女は「ローマの休日」を注文したのですが、このときすでに空気が重くなっていました。

その状況に恐れをなした私は、前日から考えていた「じゃあ、僕は劇場版アンパンマンのカクテルを」というギャグを捨て、この台詞を口にしたのです。


「僕は、『ゴッドファーザー』を!」

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