2016.03.21
シンガポール・ラブストーリー Vol.4「それに、みんな日本より気軽にTinderとかやってそう!」
と言いながら、実は私もダウンロードはしている。
「何をもって遊び人というか分からないけど、シャイではなくなるかもな」
確かに赴任帰りの男の人って、女性のエスコートをさらりとやってのける。健二さんの前に好きだった人がそうだった。その人ともずっと曖昧な関係で、その片思いは4年以上続き、最終的に音信不通となり、結果、彼は結婚していた。最後に家で会ってからそう日も経たないうちに、偶然見かけて知ってしまった。数カ月、心がゾンビみたいになっているとき会ったのが健二さんで、だからこそ意地でも傷つきたくなかったのだ。
「梨花さん、あんまり男のことを敵だと思わないでね」
「うん、そんなことはない。縁がなかったんだと思うようにしてる」
迷いや心変わりは罪じゃない。
「よく女性がフラれたときに、“そいつの目は節穴だ!”とか、“そんな男終わってよかった”と励ますけど、否定するのがいいかはわからない。その人だって惹かれたから男女の関係になったと思うし、一緒にいて楽しいから会っていたはず。だから過ぎた人も自信にするぐらいでいたらいい。そしたら、どんどんパワーアップするよ」
もう日が暮れて、私たちはソファと夕食を求めて『フラトン・ベイ・ホテル』へ向かった。ここもテラスから『マリーナ ベイ サンズ』がよく見えて、歴史的建造物でもあるロビーはアーチ型の装飾とクラシカルなシャンデリアが美しかった。
「梨花さんは、結婚願望はある方なの?」
ある。ただ、周りの人よりはぼんやりとしている方だと思う。
「何歳までにしたいとか、どういう人としたいとか考えたことはあまりない。でも人によっては20代後半で結婚のビジョンを固めてる人もいたりして、しっかりしてるなって感心しちゃう。私はビジョンじゃなくて気分しかなくて」
気分(=恋愛=片想い)と仕事を繰り返していたら、いつの間にか34歳になっていた。本格的な焦りはないけど、実家に行くと、85歳のおばあちゃんは「おばあちゃんが死ぬまでに結婚して」と言いい、5歳の姪っ子は「梨花おねえちゃん、なんで結婚していないの?」と聞く。それもみんなの前で。子供と老人は恐ろしいほど素直だ。
「恋人すらできない私だけど、結婚するなら大好きな人としたいと夢みちゃっているな」
「僕もそうだよ。恋愛で高揚しているうちに、結婚したい。自分の感情はいいかげんなものだと思うし、日毎に気持ちに変化もあるだろうけど、でもさ、一度は夢中にならないとその後尽くせないよ。自分も自分たちの親もずっと元気でいるわけじゃないから」
色んなカタチがあるだろうし、恋愛と結婚は別だという経験者も多い。
「私、相手には言えないけれど、好きな人ができるとその人のお母さんの世話をどれくらいできるか妄想しちゃったりする。重いでしょ!」
「重いね(笑)。でももう35歳にもなる僕らだから、重くて当然なんじゃない。家族のこともイメージするよ」
「あくまで妄想だし、考えるだけは簡単。恋愛に酔っているのに、その人の家族を巻き込んでいるだけかも。実際は愛だけじゃ解決しないことばかりなんだと思う。でも、色々なことが後から起こるなら、余計に最初の恋愛期間を大事にしたい。ケンカをしたり何か不安定なことがあったときに、糧になるようなものが欲しいというか」
ホテル1Fにある『The Clifford Pier』の食事はビュッフェ形式で、ビュッフェといっても料理台が並んでいるものではなく、オーダー式で出来たてのものを食べられるようになっていた。私たちは鴨や豚の焼き物の盛り合わせ、それに五目焼きそばのようなものをシェアしながらワインを飲んだ。
「誠さんは恋愛対象の年齢は気にしたりする?」
「そうだな。あまり気にしたことないけど、しいて言えば30歳から48歳とか」
これは、私にとって100点満点の答え……。アラサー以降の女性にとって、歳上の女性を恋愛対象にいれる男性の好感度は極めて高い。ひょっとして子供のいない結婚生活も視野にあるのかなと思う。
「梨花さんは?」
「絶対じゃないけど、自分と年齢が近い方がいいかな。もし上でも体力のある人(笑)。一緒に何かする時に、相手がすぐに疲れちゃったら寂しいから」
互いに結婚素人なりにそれぞれの価値観を話し、それこそ、家事の分担はどうするのが理想かなども話し合った。私は誠さんと会ってもう何週間も経っているような感覚になっていて、今夜が最後という実感があまりなかった。
「最後に、梨花さんを連れていきたいバーがあるんだ」
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