昨夜のことについては、どう返したらいいのか分からずスルーしてしまった。でも、会うことをOKしているのだから十分なはず。タクシーをひろってセントーサ島へ向かう。
女性雑誌の美容担当でもある真希がおすすめしてくれたスパは、セントーサ島の『カペラ シンガポール』というホテル内にあった。セントーサ島はシンガポールの南にあるレジャー施設の多いリゾートアイランド。島といっても本島と橋で繋がれているので、街の中心部からもクルマでたったの15分で着く。
噂には聞いていたけど、『カペラ シンガポール』はすごくお洒落なホテルで、カップルで逃避行するのにもってこいという感じ。スパもジャグジーが充実していて、身体をよくほぐしてからスパの施術を受けることができた。
ハーブの香りが心地いいオイルトリートメントを受けていたら、このときばかりはすべてを忘れて無の状態に。セラピストに赤ちゃんみたいに身体を委ね、後半は気持ちよさに落ちてしまって記憶がない。
トリートメントを終え、ほうけた頭のまま携帯を見ると、誠さんからLINEが入っていて一気に目が覚めた。
「今晩、食事に行きましょう!」
それに続き「興味があれば」と、おすすめのレストランのリストもついていた。すべてローカルな感じの店で、どこも手頃で美味しそう!きっと私の希望どおり奢らせるつもりで、かつ負担をかけさせない。こんな優しくてデキる人で、しかもイケメンで、なぜ独身なの??
「私、本場のチキンライスを食べてみたいです!」
「OK!今日は早くあがれそうだから19時でどうかな?」
2回めのデートが決定した。時間に余裕があるから、ホテルに戻って着替えてから行こうかな。別に今晩どうにかなるってわけじゃないけど、スパで身体がピカピカになったあとにデートに行くって、女を満喫している感じがする。血行がよくなったからか、なんだか顔まで艶々だ。
『カペラ シンガポール』を出て、その後、同じくセントーサ島にあるホテル『W シンガポール』へ向かった。東京にはWがないから、他国で機会があれば必ず立ち寄るようにしているのだ。ホテルとクラブが合体したような空気感のWに行くと、エネルギーに溢れるアジアの都市にいることを実感してテンションが上がってくる。
鳥かごに入ったユニークなハイティーをオーダーして、真希に現状報告。手っ取り早いから誠さんからのメールをキャプチャして送ってしまう。女同士のLINEには、ときにキャプチャ画像が飛び交う。あー、こういうの本当はやめたい……。恋愛話の緻密すぎる“ほうれんそう”。真希はもう何年、私の一喜一憂につき合ってくれているんだろう。
「キープ! 佐野 誠キープ!」
メールを送ったら、真希から興奮気味な返信が即返ってきた。「梨花はいつも追いかけてばかりなんだから、そろそろパターンを変えて受け身になってみたら?」
そんな文を読んでいる隣で、ハイティーのかごの中にいるおもちゃの鳥がピヨピヨと鳴いていた。
ホテルの部屋に戻り、化粧をなおして鏡を見る。ローカルフードのお店って、店内が明るそうだからメイクはナチュラル系にしよう。鏡を見るだけでは何も変わらないのに、エレベーターやロビーなどで、鏡がある度に立ち止まってチェックをしている自分がいた。