キー局のアナウンサー試験に全滅したが、あくまで女子アナになることにこだわり、地方局のアナウンサーに。
アンは、あの後、サエコをサークルから追い出し、サークル公認として、ミス慶應コンテストに推薦されたものの、結果、最終候補の6人には絞られたものの、ミスにも、準ミスになることも逃したのだった。
ー女子アナの登竜門である、ミス慶應になり、キー局(できれば、フジテレビか、テレビ朝日が望ましい)のアナウンサーになり、そして、社会的ステータスの高い男性と結婚して、かの山口百恵のように伝説的に引退を発表、幕を閉じる・・・ー
高校時代まで女王だったアンにとって、それは、青写真を描くというほど壮大で無謀な夢ではなく、来たるべき未来だったのだ。
言わずもがな女子アナは、東京の婚活市場における女の最高銘柄。
イチゴでいうあまおう、牛肉界の松坂牛がそれである。フレンチでいえばロオジエ、時計だったらパテックフィリップ、車だったらマセラッティである。
成功を手にした男ほど、その隣には、トロフィーワイフを求めることは知られた話。その知性と、品格と、美貌、愛嬌に、少しの隙が加われば、五角形のレーダーチャートにして、美しい形を描く(キー局の)女子アナの前には、どんなタレントもGカップグラビアアイドルでも、結婚相手としては足元にも及ばない。
しかしながら、キー局のアナウンサー試験に全滅したアンだが、あくまで”女子アナ”に固執し、地方局のアナウンサーとなっていた。
アンにとって、サエコが入社した化粧品業界などで一般OLになることは都落ちも同然。ましてキー局の総合職採用も論外だ。自分が喉から手が出るほど欲しかった“キー局の女子アナ”というスーパープレミアムシートに座った女が近くで笑っている空間に出くわすこともあるその場所で、どんな顔で毎日過ごせばいいのか、皆目検討がつかない。嫉妬のあまり、放火魔とか、通り魔の類になってしまう夢さえ見たのである。
アンは一呼吸つくと、「凡庸な知人」がご丁寧に教えてくれた男の名前をFacebookで検索した。
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