2015.12.19
崖っぷちアラサー奮闘記 written by 内埜さくら Vol.1 昔、サスペンスドラマで共演した、小田慎一郎だった。
今年53歳になった小田は、人柄のよさで知られ後輩の面倒見もよく、ドラマで共演してから涼子も頼りになる先輩と慕っていた。
だから引退を決めたとき、小田にだけは報告し、ほかの業界関係者の連絡先はすべてアドレスから消去した。その小田からの連絡だ。激務を案じて自分からの連絡は控えてきたため、うれしくないはずがない。
「最近なにしてる? 久しぶりに銀座にでも出てこないかい?」
単なる後輩だった自分を思い出し、気遣ってくれる小田に涼子の目は潤んだ。
銀座並木通りにある西洋料理屋『南蛮銀圓亭』に現れた小田は、MACKINTOSHであろうと思われる黒のシンプルなコートに仕立てのよさそうな黒のニット、そしてグレーのフランネルのパンツという、以前と変わらぬシンプルないでたちだった。
下品にならない程度に身体のラインを拾うベージュの膝下丈のワンピースに、同系色の9センチヒールのコーデを選んだ涼子は、自分が場違いな服装をしていないことにほっとひと安心する。
「元気にしてた? 雅ちゃん……じゃないんだっけ、いまは」
「……いまは北岡涼子なんです」
明るく振る舞おうとしているものの、芸能界にいたころのような快活さが失われた涼子を見て、小田は現状を察したのだろう。マテラ酒で香りづけをした、小田自身の好物であるビーフシチューを平らげると言った。
「久しぶりに会ったんだし、今夜はパーッと遊ぼうか!」
銀座並木通りにある老舗のクラブ『銀華』は、ドラマの打ち上げで一度来て以来、名物ママに会いたくてたまに行くと小田は言う。
涼子が初めて行ったこの夜に出迎えてくれたのも、この由紀ママだった。
「あら~、小田さん、お久しぶりじゃないの~」
40代後半とおぼしき由紀ママの見た目にまず、涼子は圧倒された。
クリームがかった控えめな文様の色留袖に、こんもりと高く結い上げられた夜会巻きで一寸の隙もない身なりをしている。
「粋」な女性というのが涼子の第一印象だった。その、完璧なまでの着こなしと、垂れ目の愛嬌ある顔からこぼれる笑顔とのギャップに、同性の涼子まで惹きつけられた。
やや粘度が高くゆったりとした口調で甘えを演出しながらも上品さが損なわれていないのは、銀座を生き抜いてきた女ならではの品格なのかと、涼子は、いままで出会ったことのない人種に胸を衝かれもしたのだった。
「こんなに高い店、そう頻繁には通えないよ」
コートを預け、小田が苦笑混じりに言ってから涼子を紹介しながら席につき、ヘルプの女性たちが小田の両隣を陣取った。杯が重なり夜もふけてきたころ、由紀ママが涼子を見て言った。
「涼子さん、とってもお綺麗ね。左目の下にある泣きぼくろがセクシーだわ。小田さんのお連れということは、芸能関係の方?」
涼子を気遣い、小田が「いや、違うよ」とだけ濁すと、由紀ママがさらに涼子をほめる。
「こんなに華がある方って、そうそういないわ。その、ちょっと寂しそうな笑顔も男性をそそると思うの。スタイルだって抜群だし」
そして、畳みかけるように言葉をつなぐ。
「涼子さんはいま、どんなお仕事をしていらっしゃるの?」
答えかねている涼子を気遣い、小田が助け舟を出す。
「ちょっと休憩中なんだよね?」
肯定とも否定とも取れないような薄い笑みを浮かべる涼子を見据えて、由紀ママが聞いた。
「ねえ、涼子さん。ウチのお店で働いてみる気はない?」
小田が、「由紀ママが自分のお店でスカウトすることもあるんだ」と驚き、由紀ママが「嫌だわ小田さん、わたし、このお店でスカウトするなんて初めてなのよ」と、語らう声を聞きながら、涼子は、「本気で言っているのだろうか」と、由紀ママの誘いを受け止めかねていた。
文/内埜さくら
【崖っぷちアラサー奮闘記 written by 内埜さくら】の記事一覧
2016.04.02
Vol.17
崖っぷちアラサー奮闘記 最終回:アラサーが最後に選ぶ男と仕事は……!?
2016.04.01
Vol.16
いよいよ明日で最終話!「崖っぷちアラサー奮闘記」全話総集編
2016.03.26
Vol.15
崖っぷちアラサー奮闘記:ついにプロポーズ!どうせ結局、最後は男で決まる!?
2016.03.19
Vol.14
崖っぷちアラサー奮闘記:ホステスを続けるか就職するか。人生の岐路に立たされる!
2016.03.12
Vol.13
崖っぷちアラサー奮闘記:アラサーだけど守り通した女の操、絶体絶命の大ピンチ!!
2016.03.05
Vol.12
崖っぷちアラサー奮闘記:どん底涼子の前に現れた紳士は「救い」か「罠」か
2016.02.27
Vol.11
崖っぷちアラサー奮闘記:元彼との復縁を阻む腹黒女2人の陰謀……!
2016.02.20
Vol.10
崖っぷちアラサー奮闘記:自宅の前で待ち伏せする不審な女性と、連絡のつかない求婚者……
2016.02.13
Vol.9
崖っぷちアラサー奮闘記:私が専業主婦?元カレのオファーは希望か墓場か
2016.02.06
Vol.8
崖っぷちアラサー奮闘記:LINEに届いた衝撃画像……お金を取るか友情を取るか!
おすすめ記事
2019.03.02
Who?
人気男性タレントに近づく、女性記者の思惑。彼が必死で隠している“裏の顔”に迫る、女の執念
- PR
2024.11.20
銀座で女性と過ごす夜。アイリッシュウイスキーが引き寄せた、2人だけの密やかな高揚とは
2019.09.05
聖女の仮面
「純潔ではない」というレッテルを貼られ…。過去に嵌められた美女が、友人の前に再び現れた理由
2018.01.30
職業別女子カレンダー
職業別女子カレンダー:30歳男が目覚めた、“頭脳”でモテる方法。百戦錬磨の国際線CAとデートを取り付けるには?
- PR
2024.11.18
総勢100名に当たる!西友&東急ストアで「スプリングバレー」を買って東カレ厳選グルメをもらおう!
- PR
2024.11.21
クリスマスは絶景を望むホテルデートへ!彼女がワッと喜ぶ、とっておきの夜を丸の内で過ごすなら…
2017.08.01
東京プールラバー
東京プールラバー:思わず二度見してしまう水着美女!彼女が大人の遊び場に集うワケ
2018.07.08
パーフェクト・カップル
敏腕芸能マネージャーが語る、人気アナウンサーのスキャンダルの裏側と、最後の秘密
2023.04.28
甘いひとくち〜凛子のスイーツ探訪記〜
甘いひとくち〜凛子のスイーツ探訪記〜:金曜日の夜。社内随一のデキ女が独り訪れたのは…
2024.08.10
男と女の答えあわせ【Q】
「夜景の見えるレストランを予約したのに…」お台場デートの後、30歳女の態度が急変したワケ
東京カレンダーショッピング
『佐藤養助商店』:門外不出の技による、喉ごし滑らかな"稲庭干饂飩"
『かに物語』:ふっくらと肉厚な一本爪が2本入ったフレンチカレー
『西岡養鰻』:特製タレ付き!脂の乗った高品質な鰻を土佐備長炭で丁寧に焼き上げた蒲焼
『マルヒラ川村水産』:ご飯に載せて贅沢いくら丼!1粒1粒に旨みが凝縮された、とろける食感の北海道函館産天然いくら
『North Farm Stock』:北海道産ミニトマト使用!糖度が高く、コクとうまみがたっぷり詰まったトマトジュース
『ル・ボヌール 芦屋』:フリーズドライフルーツにホワイトチョコがたっぷりと染み込んだ新感覚スイーツ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
この記事へのコメント