崖っぷちアラサー奮闘記 written by 内埜さくら Vol.1

崖っぷちアラサー奮闘記:芸能界から捨てられた女の「これが私の生きる道」

 だが、芸能界は雨後の筍のように、次々と実力と美貌を併せ持つ逸材が参戦してくる、弱肉強食の世界である。そうした新人が頻繁にデビューするうえに、時代が涼子より年上の、アラフォーの脇役女優に脚光を当てるトレンドに突入した。

 下積み時代に虎視眈々と演技力を磨き続けてきた彼女たちの芝居は視聴者を魅了し、彼女たちより演技経験の浅い涼子は、じわじわとポジションを侵食されていく。主演に抜擢されず、「代表作」がない涼子は、次第に世間から忘れ去られていった。

 もし、あの仕事を断っていなかったら、わたしはいま、これほどお金に困っていなかったのかもしれない。

 涼子にとって、26歳のときにオファーを断ったヌードグラビアと、過去を振り返ることはセットだった。

 脱ぐのであれば主演映画で役として、というのが、女優としての本望だった。だが、自分にオファーがきたのは映画ではない現実に、女優としての「格」を突きつけられた涼子は打ちのめされ、やる気を生み出せなかったのだ。

 以降、じわじわとオファーが減ってスケジュール帳の空白が目立つようになり、深夜のラジオドラマで3回ほどしか出演しない端役を演じたのを最後に、27歳で仕事がゼロになった。

 だからデビュー当時から世話になった所属事務所から、契約更新しないと告げられたとき、(わたしは、芸能界の“椅子取りゲーム”に敗れたのだ)と、首を縦に振るしかなかった。29歳の冬だった。

 ほかの事務所に移籍して出直す方法も瞬時、脳裏をかすめたが、5年、10年後にブレークできずじまいだったらそのとき、後悔しても遅い。悔しさよりも冷静に将来を客観視する自分が勝り、業界を退くことにしたのだった。

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