リアル働きマン葉子!黒革の編集手帳 written by 内埜さくら Vol.7

リアル働きマン葉子!恋人宅に向かうと、そこには別の女…

前回までのあらすじ

食雑誌である『月刊東京ウォーキング』の編集者・高嶋葉子(35)は、この道10年目の中堅、未婚、彼氏アリ。

年下彼氏である橘 京太郎(28)はいるが、年収320万円と適齢期を過ぎた彼女には心もとなく……。そんなとき紹介された起業家・才島孝央とディナーを共にし、2軒目の誘いに乗る。

一方、京太郎のほうは会社の後輩である倉田紗耶香に押し切られるかたちではあったが、家に連れて帰ってきてしまった。

と、そこへ……?

葉子は昨日、出会ったばかりの才島に、一瞬でも爛(ただ)れた思いを抱いたことを激しく後悔していた。

とはいえ、2人は昨夜“オトナの関係”に至ったわけではない。「ではこの後、もう1軒行きましょうか」と、才島からの誘いを葉子自身が引き出してしまったことは確かだが、『虎白』を出た瞬間、冷たい秋風によって酒で火照った頬を刺され、互いに平静を取り戻すことができたのだった。

「やっぱり今夜は帰ります」

葉子が伝えたときの才島の反応は、誠実そのものだった。

「そうですね。では次はランチでもどうですか?」

今回は葉子の親友、亜由美のセッティングで夕食をともにしたため、次回が2人にとって真の初デートとなる。初めてのデートで昼間会うことを提案する男性は、相手の女性にまごころを持って接している確率が高い。昔、人生の先輩から教えてもらった説をあらためて思い出し、「適齢期をすぎた私を大事に扱ってくれるなんて」と、才島に感謝した。

才島の対処に感謝するとともに、葉子は自分を責めていた。恋人以外の男性と身体の関係を持つのであれば、恋人と別れてからにすればいい。そんな当たり前で、自身もオンナになって以降徹底してきたポリシーが、揺らぎそうになってしまったからだ。束の間でも、京太郎を軽んじた自分に嫌悪もした。

仕事が忙しすぎて京太郎に会えないから、寂しかったのかもしれない。

才島と別れた後、葉子は無性に京太郎と会いたくなった。1週間以上前の電話で、忙しさにかまけて最後まで話を聞かずに切ってしまったことも詫びたかった。なによりも、京太郎以外の男に淫らな感情を宿した自分を、浄化してほしかった。

抱かれて、清められたい。

その願望が全身を満たした刹那、自分都合の考えであることを痛いほど自覚した。自分の穢れを相手に浄化してもらうのは、重い荷物を相手にだけ背負わせることと同じではないか。たとえば隠していた浮気を罪悪感に耐えきれず告白するように、自分だけが楽になろうとするのは、卑怯ではないか。

そんな思いに占められて、葉子は自制した。それなのに、どうしたことだろう。今日になっても会いたい気持ちが一向に引かない。寂しさだけでは説明できないなにかが、どうしようもなく京太郎を求めている。

「どうしたんですか、高嶋さん。珍しくぼーっとしちゃって」

編集部の後輩に指摘されて我に返った。いま葉子は、後輩2人と南青山にある『悠久』で食事中だった。『月刊東京ウォーキング』の読者層は30代以上がメインだが、20代である彼女たちの意見もミックスして新たな切り口を展開し続けなければ、いずれ読者に飽きられてしまう。だから葉子は、月に一度は情報交換の場を設けるようにしていた。

テーブルに目を移すと、楽しみにしていた竹べら味噌焼きが食べ尽くされてしまっている。桜味噌や大豆にゴボウ、生姜などを細かく切って混ぜてある味噌を、注文のたびに切る竹に載せて供されるこの一品を、焼酎と味わうつもりだったのだ。

だが、それは今度にしよう。京太郎に会いくてたまらない。

「急用を思い出したからお先に失礼するわ。また、近いうちに」

そこまでの支払いを済ませると、葉子は店を後にしてタクシーに乗り込んだ。

(給料日前の京太郎は元気がなくなるから、そうだ、明日はおいしいお肉でも食べに行こう)

京太郎だって会いたいと思ってくれているはず。驚かせてしまおう――あえて葉子は連絡せず、京太郎宅へと向かった。

その頃京太郎は、すでに部屋を暗くして、ソファーに身体を横たえていた。給料日前の休日は、財布の中身の心もとなさも手伝い、なぜか異常に疲れる。それに今夜は、隣の寝室を貸した紗耶香の件もあり、気力も消耗した。

いつもより寝る時間が早いけれど……と、眠りに落ちようとしたそのとき、玄関チャイムが鳴った。

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