リアル働きマン葉子!黒革の編集手帳 written by 内埜さくら Vol.3

リアル働きマン葉子 “取らぬ狸の皮算用”と“笠地蔵”、女の選択は?

食雑誌である『月刊東京ウォーキング』の編集者・高嶋葉子(35)は、この道10年目の中堅、彼氏アリ、未婚。

今夜は本命彼氏である橘 京太郎(28)と不穏な空気になりつつも、ビールを飲み干すことで、世知辛い諸々の状況を飲みこもうとした。が、まっすぐ帰らない、ということは、またこれ……やはりなにかあるワケで。

葉子はモヤモヤを昇華させるため、声を張る。

「すみませーん。腸詰ください」

「さっき一軒目で、焼き鳥をたくさん食べたのに、また肉?」

「だって『藤八』に来たら頼まないと」

「葉子の大好物だもんなあ」

仕方ないか、という顔つきで、京太郎が目を細めて笑う。

中目黒の大衆割烹『藤八』から京太郎のマンションまでは徒歩5分。「飲み足りない」とねだって『佐々木屋 源八』から移動したが、結果として葉子は今夜、京太郎とすごすことを選択したことになる。

酒に酔って判断能力が鈍ったわけではない。元彼を思い浮かべ、いまは別れるべきではないと、冷静な自分がジャッジを下した。

葉子と同い年の元彼は、酒が一滴も飲めなかった。「場の雰囲気が好きだから」と、葉子が酒を飲むことも、酒に合う料理がメインメニューの店に行くことも敬遠しなかったが、酒が好きな葉子は、つねに酔った姿をさらさないよう抑止し、気づまりしたことを覚えている。元彼は食の好き嫌いが激しく、店選びに難儀したストレスと重なり、葉子から別れを告げた。

たかが飲食の好みの違いだけで? 周囲は驚いたが、葉子は後悔していない。あのとき別れていなければ、自分と同じぐらい酒が好きで強い京太郎とつき合うことはできなかった。しかも京太郎とは、食の好みも合う。やんわりとたしなめたくせにいま、腸詰をおいしそうに咀嚼している京太郎を見て、間違っていなかったと頬がゆるむ。

奥二重の涼やかな目元にまっすぐ通った鼻筋と、口角が上がった口元を持つ京太郎は、かわいらしさのなかに色気が滲む顔立ちをしている。同世代からもてはやされるだろうと思いきや、彼いわく「そんなことはない」という。理由は明白だ。親密な関係になるまで、父親の実態を告げないからだ。

よって、なにも知らない結婚願望を抱く女たちは、全身ノーブランドで固めた京太郎に、こんな印象を持つ。

ルックスがよくホスピタリティ精神にあふれてはいるが、年収が低そうな男。ホスピタリティ精神こそ葉子が恋人に求める条件だが、それだけでは満足できないスペック重視で足切りする“取らぬ狸の皮算用”な女たちは、すばやく立ち去る仕組みだ。

翻って葉子は、スペックなど考える以前に文字通り与え続ける“笠地蔵”タイプ。見返りを求めないどころか、見返りの存在さえ知らないほどの。

その現状に葉子は、感謝せずにいられない。2人は食の相性のみならず、体の相性までこの上なくいいからだ。皮算用をする女がいないおかげで、葉子は余計なことに煩わされない。

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