2015.08.22
リアル働きマン葉子!黒革の編集手帳 written by 内埜さくら Vol.2食雑誌である『月刊東京ウォーキング』の編集者・高嶋葉子(35)は、この道10年目の中堅、彼氏アリ、未婚。前回は、ナンパ男とのデートを楽しんだが、今夜は本命彼氏である橘 京太郎(28)と。うれしいはずなのに、ちょっと不穏な空気に……?
銀座でナンパしてきた中田と何事もなく別れた翌日の夜。二週間ぶりのデートだというのに、京太郎のひと言で、葉子は暗澹たる思いにとらわれてしまった。
せっかくランチもとらないで、机に一日中ずっと張りついて仕事を終わらせてきたというのに。
「来年あたり、親父の会社に入るかもしれない」
京太郎の父親は、社員数1000人を超える広告代理店の社長だ。その会社に入社するということは、順調なエリートコースを歩む準備が整ったことと同義である。本来なら出世街道に乗った京太郎に、歓喜する場面だ。
だが、葉子は純粋に喜ぶことができない。長男のみならず次男の京太郎も引き入れるということは、同族経営で会社を発展させる未来予想図を描いていることが、手に取るようにわかるからだ。
お見合い結婚した長男夫妻は、5年経ったいまも子供に恵まれていないという。橘一族で会社を統治していくのであれば、両親が京太郎に子孫繁栄を望むのは当然である。
だからこそ葉子はふさぎ込みそうになる。いま妊娠しても、高齢出産にカテゴライズされる自分が歓迎されるとは到底思えないからだ。普段は感じない京太郎との7歳という年齢差が、心に重くのしかかる。
加えて資産家である橘家は、息子の伴侶にもよき家柄も求めはしないだろうか。ごく普通の家庭に育った葉子は、家柄も年齢も条件には当てはまらない。
「おめでとう。未来の幹部候補に乾杯しましょう」
そんな本心をけぶりも見せず、葉子はビールジョッキを掲げた。恋人の幸福を喜べないような、下品な人間には成り下がりたくなかった。
「ありがとう。これでやっと、結婚しても葉子に苦労させないですむかもしれない」
確かに葉子は交際前、将来を考えられないつき合いをする時間はないと伝えた。ただしその宣言は、京太郎が親の会社に入るつもりはないという意思を受けてのことだった。大学時代、さんざん遊びつくして2年留年した京太郎は、卒業と同時に父親が所有するマンションの一室のみを与えられて勘当された。いま彼が勤めている零細企業は、親のコネを使わず自力で得た賜物だ。
企業の規模を聞いていたから、年収が320万円だと教えられても驚かなかった。仕事が自分であるための精神的支柱となっている葉子は、一生働きマンを自認しているし、一家の大黒柱になることもいとわない。しかし、最低でも肩書きがついてから覚悟をしたい。これが“いまは”京太郎と結婚を考えられない葉子の胸中だった。
男は金を持つと変わる。
昔、誰かから授かった知恵だ。企業の未来を託される立場になったら、葉子が部屋へ泊まりに行った翌朝、ご飯を作ってくれたり、汚れ物まで洗濯しておいてくれる、まめまめしさも失われてしまうのだろうか。2人とも働きマンになるこれからを、うまくイメージできない。
気分が落ちたときは、お腹を満たして幸福感を取り戻すに限る。葉子は店員を呼んだ。
「ぼんじりとつくねと手羽、ハツとレバ塩を2本ずつください。あとは、アボカドの浅漬けと野菜スティック」
「砂肝と皮も2本ずつ。牛ミノキムチも」
下北沢にある『佐々木屋 源八』は、2人がこよなく愛する焼き鳥屋だ。おいしいのに安価なこの手の店を見つけ出す嗅覚のよさも、京太郎の魅力だと感じている。だが、彼の社会的立場が変われば、このお店で顔を寄せ合い「おいしいね」と微笑み合うことも過去になるかもしれない――。
「今夜は編集部に戻らなくていいんだよね?」
ウチに泊まれるのか否かを暗に問われて我に返った。別れを視野に入れるならば、泊まりに行く回数は減らしていくべきであろう。一方で、女の幸せをみずから放棄しようとする自分に苛立ちもしている。
どうしよう……。即答できないまま、ビールを喉に流し込んで時間稼ぎをした。
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