SPECIAL TALK Vol.141

~金箔に注がれた祖父と父の愛情。変化を乗り越えて未来に繋ぎたい~


金箔のことを好きになり、金箔への愛情を受け継いだ


金丸:ところで、家族会議での一言がきっかけで、家を継ぐことが決まったのですか?

高岡:さすがに無条件で継ぐのは違うと思って、「金箔をちゃんと好きになれたら継ぐから、数年間考えさせて」と言いました。

金丸:金箔を好きになる。確かに、好きでもないことを仕事にしても苦しいですからね。

高岡:父は金箔について何も教えてくれなくて。ただ、金箔への愛情がものすごい、ということだけは分かっていたんです。

金丸:何も教えてくれない?それは高岡さんが次女だったからですか?

高岡:いや、姉にも何も教えていなかったと思いますよ。

金丸:ええっ。それでお姉さんが継いでくれると思っていたというのは、ピュアというか、ちょっと都合が良すぎるようにも感じますね。自分が金箔のことを大好きだから、娘も当然同じ気持ちだろうと思っていたんですかね?

高岡:あまりにも金箔が身近だったので、教えるという発想がなかったのかもしれません。

金丸:さりげなく金箔のことや歴史を教えて「この伝統を継げるのはおまえしかいない」と仕込んでいたら、違っていたかもしれないですね。箔打ち紙だって、仕込みに半年かかるわけですから(笑)。

高岡:一応、その時点で、姉より私のほうが金箔や店舗になじみがあったとは思います。私は接客が好きで、店頭に立って手伝うこともありましたし。

金丸:でも「好き!」と言い張れるほどではなかった。

高岡:なので、もうちょっと金箔を感じないといけないなと思って。インテリアだったり、小物だったり、身の回りのものに全部金箔をはってみたんです。そしたら、改めて金箔の薄さや美しさを感じて、どんどん愛着が湧いてきました。

金丸:お姉さんはモダンバレエの道を選んだけど、高岡さんにはほかに夢はなかったんですか?

高岡:子どもに英語を教える仕事がしたいと思っていましたね。だから、大学卒業後にしばらくボストンにいたことも。

金丸:では、そちらの道もちゃんと検討した上で、金箔を選ばれたんですね。でも、良かったですよ。英語教師だったら、今頃AIに代替されていたかもしれない(笑)。

高岡:そうかもしれないですね(笑)。金箔職人の仕事は、AIやロボットにはできませんから。でも今になって思うのは、受け継いだのは、事業というより金箔への愛だと思います。

金丸:2代分の愛情。そう考えると、一層、責任が重いですね。

伝統工芸であり材料。「材料屋」の突破口探し


金丸:考えてみると、金箔というのは変わった存在ですよね。伝統工芸なのに、最終的には何かに使われる「材料」じゃないですか。焼き物や漆器みたいに、それ自体が作品として完結していません。

高岡:そこが他の伝統工芸とまったく違う点ですね。それに、先代からの歴史として「できる限り、言われた価格で納める」という文化が染み付いていて。

金丸:レアアースでもない限り、「ただの材料」だと、高く売るのは難しい。価格の主導権を持つという発想がなかなか育ちにくいでしょうね。

高岡:まさに。だから父が「付加価値をつけたい」と考えて、箔座を立ち上げたんです。ただ、最初のうちは、自社で開発したものではなくて、作家さんの作品や仕入れ品を置いていました。

金丸:材料を売るところからすれば大きな進化ですが、それだとちょっともったいない気がします。

高岡:なので、自分たちでデザインもするようになり、アクセサリーや器、コスメ、インテリアと幅を広げてきたところです。

金丸:自社でデザインを手掛けるといえば、アパレルブランドZARA創業者のアマンシオ・オルテガは、もともと下請工場で働いていたそうです。下請けでいる限り、買い叩かれることに気付いた彼は、「自分のブランドを持って自分で売るしかない」と決断し、アパレル業界で売上世界一を誇る企業へと成長させました。やはり高品質のものを自分で作って自分で売る、というのは強い。金箔も材料として他社に提供するより、最終商品まで自分たちで手掛けた方が絶対にいいと思います。

高岡:そうですよね。ただ、「材料屋」のさがとして、業界全体に高く売る勇気がまだ十分に持てていないところがあって。

金丸:勇気を持つためには、しっかり逆算するのがいいかもしれませんね。今、職人が伝統箔、現代箔あわせて40人くらいしかいなくて、作れる量には上限がある。だったらその量をベースに、職人の給与を適正に上げることを前提に値段を決める。言い値で売り続けていても、金箔の未来は守れません。

高岡:確かに。環境も大きく変わりました。以前は宗教市場のシェアが非常に大きかったんですけど、今はライフスタイルも変わって、仏壇どころか、畳の部屋がない家も増えています。

金丸:もっと昔は、大名が「寺社仏閣を建立する」と言って年貢を取り立て、大量の金箔を使っていた。そういうビッグスポンサーがいなくなったわけだから、職人の世界も変わっていかないといけません。

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