SPECIAL TALK Vol.141

~金箔に注がれた祖父と父の愛情。変化を乗り越えて未来に繋ぎたい~


伝統金箔を感じられる空間が東京にも


金丸:箔座は金沢が本店で、東京にも店舗を出していますよね。

高岡:ありがたいことにご縁をいただきまして。三井不動産さんが日本橋で伝統と革新のまちづくりに取り組んでいらっしゃって、声をかけてくださったんです。岩沙弘道さん(現・三井不動産相談役)が「ぜひ」と。

金丸:岩沙さんとは私も親しくさせていただいておりますが、素晴らしいですね。

高岡:三井不動産さんからお電話をいただいて、最初は不動産の営業だと思って「間に合ってます」みたいな対応をしていたんですけど(笑)。ただ、よくよく伺うと、「日本橋に出店しないか」ということで、歴史的な縁も感じました。江戸時代前期に、今の日本銀行があるあたりに、「箔座」が置かれていたので。

金丸:ん?箔座というのは、オリジナルの社名じゃないんですか?

高岡:今、名前としては「銀座」しか残っていませんが、昔は「金座」や「箔座」もあったんです。

金丸:じゃあ、金箔も統制が敷かれていたのですね。

高岡:そうなんです。私たちの社名はそれが由来で、質の高い箔を作り続けて日本の伝統文化に貢献したい、という思いから名付けました。

金丸:日本橋の店舗には、金色の空間があると聞いています。

高岡:「黄金の天空」ですね。こちらも三井不動産さんにご支援いただきました。金箔1万6,000枚を使った、ドームのような空間です。

金丸:金箔を使った空間づくりって、なかなか面白そうですね。以前、上海に行ったときに、金のお風呂を売っているのを見たのですが、あれはちょっと下品だなと思いました(笑)。

高岡:おっしゃるように、金箔は紙一重の存在です。使い方次第で下品にも上品にもなりますから。最近、ティファニー 銀座の2階の天井に、金箔を設えさせていただきましたが、そちらでは久遠色(くおんいろ)と名付けた、プラチナが8%含まれたオリジナル金箔を使っています。

金丸:すごく上品な色合いですね。

高岡:ありがたいことに、金沢の伝統金箔を保存しようということで、ティファニー財団にもいろいろとご支援いただきました。

金丸:そもそも金箔って、純粋な金じゃないですよね。

高岡:そうですね。純金だと柔らかすぎて、くっついてしまいます。それで、普通は少量の銀や銅を合金して作っています。

金丸:金銀銅。オリンピックですね(笑)。

高岡:ただ、銀や銅は状況によっては変色の原因にもなるんですよ。一方で金とプラチナの箔は、変色の原因になる物質が含まれないので、使用範囲が広い。屋外での使用にも道が拓けました。

金丸:ということは、今後は箔座の腕が光る空間が、あちこちで見られるようになるかもしれませんね。

金箔を作る前に和紙づくりに半年かかる


金丸:金箔そのものについて、もっと教えてください。日本の金箔の99%が金沢産という話を聞いたことがあります。

高岡:実はそれが100%になりました。滋賀県の職人さんが昨年引退されて、金沢だけになったんです。

金丸:なんと。そもそも、どうして金沢が金箔の産地になったのですか?「加賀百万石」といいますが、リッチだったから?

高岡 前田利家公が文化奨励に非常に力を入れていたこと、そして気候と水が箔づくりに合っていたことが大きいとされています。湿気が多すぎても少なすぎてもダメだし、和紙を作るのに金沢の水が最高だったんですよ。

金丸:たしか、金箔を和紙で挟んで叩くんですよね。

高岡:そうです。「職人の一番大事な仕事は、和紙を仕込むこと」といわれるくらい重要ですし、金箔づくりに適した紙にするまでに半年かかります。

金丸:えっ、半年ですか!?

高岡:その紙のことを箔打ち紙、別名「まま紙」と呼んでいます。「おまんまを食べるための紙」という意味ですね。

金丸:灰汁(あく)を使って丈夫にした和紙を使うというのは知っていましたが、そんなに手間がかかるものなんですね。

高岡:よくご存じですね。

金丸:なにせ名字が「金」丸ですから(笑)。

高岡:さすがです(笑)。藁を焼いた灰汁の汁や、卵の白身と柿渋を混ぜたものを手すきの和紙につけ込みます。硬い金を打ち延ばすので、紙が強くないといけないんです。

金丸:金の方は、最初はやはりインゴットの状態から始まるんですか?

高岡:そうです。実は金箔づくりは分業化されていて、インゴットを溶かして1,000分の1ミリまで叩く「澄(ズミ)」職人がいます。そこから先、1万分の1ミリまで仕上げるのが箔職人です。澄職人はもう全国で5人もいないくらいで。

金丸:箔の職人はどのくらいいるのですか?

高岡:昭和の頃には1,000人以上いた伝統箔の職人が、15人前後しかいません。

金丸:どちらも、深刻な後継者不足ですね。

高岡:伝統箔は全体の1割ほどになっていて、残りは現代箔と呼ばれます。そちらは和紙の代わりに、機械すきの紙にカーボンを塗ったものを使います。

金丸:一番手間がかかる紙の部分が、全然違いますね。

高岡:だから現代箔は2週間くらいで金箔が作れますし、生産効率も高いんですよ。ちなみに職人は25人くらいです。

金丸:やはり伝統箔のほうが、より高い技術を求められるのですか?

高岡:弊社にも「50年やってるけど、まだまだ一人前じゃない」と言う職人がいますね。

金丸:えっ、そんな不器用な職人さんもいらっしゃるとは。

高岡:いえいえ、違います(笑)。

金丸:ですよね(笑)。謙遜でしょうけど、「50年やっても、まだ上を目指せる」って、素晴らしい仕事ですね。

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