TOUGH COOKIES Vol.63

「友情にも片思いがあるなんて…」女同士はいつもライバルだったから知らなかった

SUMI

「どうせウソだよ」
「たぶんホントだよ」
「あの女、ウソで同情して欲しいだけなんだって」
「同情させてどうするの?」
「それはアタシに…」
「アタシに?」
「……」
「許してもらうための、ウソだと思う?」

ビールを受け取りながら、ルビーはともみを縋るように見上げた。

「だってじゃあ、なんでアタシには言わずに、ともみさんにだけ伝えたの?」
「本当は私にも話すつもりなんてなかったんだと思うよ。だから成り行き…というか。それにルビーがいる時は…言える雰囲気じゃなかったでしょ」

怒りをぶつけて決別を宣言した自分を思い出したのか、視線を落としたルビーにともみは、「責めてるんじゃないんだよ」と、続けた。

ルビーが宮城に行った時…明美さんの住所って光江さんから聞いたよね?つまりあの2人が連絡を取り合ってたってことを知ってたってことでしょ?」

ルビーは黙ったままだ。

「1か月くらい前に、明美さん、恥を忍んでお願いしたんだって。自分の新しい住所を光江さんに伝えて、最後にもう一度だけ、ルビーに会いたいって。病気の話は伝えてないって言ってたけど、光江さんには色々、お見通しだったんじゃないかな」

ねえ、ルビー、と覗き込むように問いかけると、泣き晴らした瞳が、ゆっくりと上がる。

「長い間会っていなかったのに――ルビーが決着をつけたくて動いた、その同じタイミングで、明美さんもルビーに会いたくて動いて、結果的に2人は再会した。それって、うまくいえないけど……奇跡、っていう響きはウソくさいけど、でも、ただの偶然と呼ぶのはもったいないというか。たとえ、明美さんの行動の理由が……超、自分勝手なものだったとしても」

自分の命が尽きるから会いたいと言われても、捨てられたルビーにとっては怒りでしかないだろう。けれど。

「明美さんは自分の身勝手さを十分に理解していて、それでも最後にどうしても、どうしても…ルビーに一目会いたくなって…ルビーが会ってくれただけでありがたいって感謝してた。決別だって当然だ、これ以上ルビーには迷惑をかけない、二度と現れません、って言ってたし」
「…」
「病気のことは私が強引に聞き出したようなもので、明美さんは話すつもりがなかったの。ルビーには絶対に秘密にして欲しいと何度も念押しされたし、ルビーの同情をひくためのウソなんかじゃない。これは本当に、ほんと」

じゃあ、何で今わざわざ?と、ルビーの顔が歪む。

「聞きたくなかった」
「だよね、ごめん。完全に私の暴走だってわかってる」
「…正直、あの人の余命とか、どうでもいい」
「うん」
「アタシはもうあの人を捨てたの。アタシに母親なんてもういない」

グッとビールをあおったルビーに、ともみは、ごめん、ともう一度謝った。

「私が秘密を抱えてられなくなっただけ。明美さんには申し訳ないけど」
「…」
「で、もう1つ自分勝手な報告なんだけど。私、明美さんのお見舞いに行ってくる」
「……は?」
「連絡先交換しちゃったし。大切なお客様の1人ですから。……ルビーも一緒に行く?」
「行くわけないじゃん」

強めの即答で睨まれた。ですよねぇ、と笑ってともみは続けた。

「お土産沢山買ってくるね。そういえば、明美さんが買ってきてくれた練り物、超美味しかったよね」

あれにする?と聞いたともみに、食べ物に罪はない、とルビーは口を尖らせながら同意した。

「ルビーちゃんは、こっちの練り物の方が好きなんです」と、微笑んだ明美が、幼き日のルビーが好んだものの全てを、きっと1つも忘れず過ごし続けてきたであろう切なさを想っていると、つーかさ!とルビーが吹っ切るように声を張った。

「さっき、1つ目は、って言ったよね。てことは、もう1つ話があるってことでしょ?」

どんな時でも、ルビーは他者の話を蔑ろにしない。尊敬できるところだと思いながらも、ともみは苦笑いで言った。

「もう1つは、この店のこと」
「タフクキのこと?」
「うん。店のルールを変えたくて。ルビーの意見が聞きたい。光江さんには怒られちゃいそうなことなんだけど」


数日後のSneetにて/西麻布の女帝・光江VSアート界のキングメーカー・紗和子


「アンタ、なんでともみの店に行った?」

「わざわざ呼び出すなんて何かと思ったら…そんなこと、話す必要があるんですか?」

「アンタはそもそもこの街が嫌いで好んで立ち寄ったりしないだろう?田園調布生まれのお嬢様にしてみれば、下品な安酒の匂いがする街、だっけ?」

「それが分かっていて、この店に呼び出すのだから、相変わらず悪趣味なババアですね」

「…いいねえ、アンタの“ババア”を聞いたのは何年ぶりかね」

「お年を召されて記憶がおぼろげに?」

「おばあちゃんになると、1年なんてあっという間でね。アンタもこの10年で随分出世して――ミチ、この人、今、なんて呼ばれてるんだったっけ?」

アート界のキングメーカー、です。とぼそりと呟いたのは、カウンターの中でグラスを拭いている、西麻布の女帝の番犬。確かミチという名だったと紗和子は記憶をたどる。最後に見た時より随分威圧感が増した長髪の大男の隙のなさは、上顧客でもあるイタリアンマフィアのボスのSPたちを思い出させる。

「そうそう、キングメーカー!」と、光江がくっ、くっ、と笑った。

この記事へのコメント

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No Name
話せる友達誰もいなくて、結局光江さんにかまって欲しかっただけにも思える、お気の毒だけど嫌いなキャラ紗和子。
ともみは次からルビーに相談対応をやらせてゆくゆくは店を去るつもりなのかなぁ....
2026/05/19 05:3111
No Name
紗和子さんのコンプレックスなのだろうけど、人を生まれながらの天才肌か凡人かで括るのをやめたらいいんじゃない? 決め付けるのもよくないし、才能潰す件もまとめて光江さんにガツンと怒られて😆
2026/05/19 11:226
No Name
お久しぶりの光江さん!!大好きです
2026/05/19 07:055

TOUGH COOKIES

SUMI

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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