港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
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「ともみさんすみません、今日から1週間くらい東京を離れちゃっても大丈夫ですか?」
ルビーからそんな電話が来たのは、ともみが、翌日の予約客がキャンセルになったことをLINEで知らせた直後だった。ルビーは今の若い世代にしては珍しく、メッセージのやり取りよりも電話を好む。
明後日からはTOUGH COOKIESが入っているビル全体の、水回りと防音システムの点検と簡単な工事が始まる予定で、元々新規の予約をとるつもりはなかったし、ルビーの申し出を拒む理由はともみにはなかった。
「今週は、光江さんが打ち合わせで使うのと、あの事務所の女優さんたちの飲み会くらいで、なんとかなるから」
ああ、みず穂ちゃんの事務所の人達か、と呟き納得したあと、ルビーは「ともみさんてば、超ホワイトな上司じゃん」とふざけた。
「普通は、なんで?とか理由を聞くものじゃないの?1週間も休みたいって言えば」
「ルビーが話したいなら、話せば?でも別に、事情なんかどうでもいいよ」
それはともみの本心だった。ルビーが自分に話していない何かを抱えていることは薄々気が付いていたし、それを無理に聞き出すつもりはない。
ともみの耳元でルビーがクスリと笑い、「やっぱ、ともみさんにお願いしちゃおうかな」とその声が弾んだ。





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