華やかさより、日常に寄り添う確かな味。派手さや流行りではなく、この地に住む人が通い続ける良店が麻布にはある。
実直な仕事と誠実なひと皿が、街の食偏差値を静かに底上げし、美食の地としての格を守ってきた。そんな、麻布で輝く真の実力店とは。
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1.華美とは対極にある静謐な佇まいで、粛々と美食の基盤を培ってきた
『御料理 辻』
港区に「麻布」とつく地名は8つあるが、東麻布は食を愛する人の間で本質を突き詰めた一流店や出自の確かなニューウェーブが集うエリアという共通認識がある。
その中でも独立開業するや否や、たちまちスターダムへ駆け上がり、東京を代表する日本料理店のひとつとして君臨するのが『御料理 辻』だ。
謙虚さの美徳のあらわれか、店構えはとにかく控えめ。夜道を照らす行灯を目印に建物の奥の地階へ進むと現れる。
隠れ家度は界隈でもトップクラスだが、ひとたびその扉を開ければ、凛とした空気と温かみのある雰囲気に心が安らぐ。
四季を愛でる正統派の日本料理には、ゆるぎない不変の魅力がある
先付に始まるコースには旬味がふんだんに盛り込まれ、仕事は細やか。料理の美しさを引き立てる器使いも堂に入っている。
「鰤の照り焼き」。
通常は魚をタレに漬け込むが、塩を当ててしっかりとなじむまで寝かせる。醤油とみりんの風味を上品に纏わせながら魚の旨みも豊かに。
寝るとき以外はほぼ料理のことを考えているという店主の誠実さが端々に感じられ、こうした麻布の店を“行きつけ”に持つことが真の大人の粋と知る。
― 麻布という地にこだわる理由 ―
「僕が麻布に来たときから街並みはずいぶんと変わりましたが、古き良き街の雰囲気と人は変わらない。常連もこの界隈に暮らす方が多く、安らぎと刺激を得られるこの場所は離れがたいです」
2.レジェンド店の確かな味が、本物を知るこの街で長く愛され続ける
『アルポルト』
時代に流されず「店の味」を、親子2代で変わらず守り続ける
西麻布で長きにわたり愛されてきた名店といえば、『アルポルト』をおいて他にない。
1983年の開店以来、数多のグルマンや著名人が通う同店を支えてきたのは、イタリア料理界の重鎮・片岡 護さんだ。
本場の味をベースに日本人に合うイタリア料理をと苦心。小量多種で提供するイタリアン懐石と呼ばれるジャンルを打ち出した。
「うちの店では和の食材や調味料も使い、フレンチの技法を取り入れるなどある意味ジャンルレスです」と語るのは、息子の宏之さん。
現在は彼が厨房に立ち、陣頭指揮を取る一方で「父はアルポルトの顔なので、お客様のおもてなしをお願いしています」とのこと。
父の料理を受け継ぎつつ自らは豊洲でより上質な魚介を仕入れるなど、ブラッシュアップを重ねる宏之さん。
父の革新的な挑戦を息子が地道な努力で守る。血を分けるふたりの強固な信頼関係と阿吽の呼吸で伝統が紡がれていく。
― 麻布という地にこだわる理由 ―
「見た目にごまかされない食の達人が集うこの地で認められれば、本物である証拠。流行に敏感でありつつも流されることはない。そんな街の気風が店を育ててくれたと思っています」
3.創業200余年。更科蕎麦発祥の威厳が令和にも受け継がれている
『総本家更科堀井 本店』
凛とした白さが店の矜持。啜った瞬間に上品な甘さがほどける
創業は1789年。『総本家更科堀井 本店』は、蕎麦の実の中心部分を製粉して打つ「さらしなそば」でその名を知られる老舗である。
明治時代のガイドブックに「麻布第一の名物なり」と評された、その蕎麦はいまも気品に満ちて白く美しく、多くの麻布住民に愛されている。
「銀座や日本橋と違う、少し田舎っぽい、ともすると野暮って思われがちな土地柄が、昔ながらの麻布。時代が下って人も随分変わりましたが、いまでも実直に本物を求める方は多いです」と9代目の堀井良教さん。
戦前の混乱で廃業に追い込まれ、その後、再興を期した際、他のエリアも考えた8代目に「麻布にあってこそのさらしな」と現在地を強く薦めたのもこの街の人々だった。
「もちろん父自身、生まれも育ちも麻布なのでこの土地に住む方々への愛着も強くあったでしょう」と堀井さん。
そんな背景があるから、いまもこの老舗は麻布と相思相愛の関係を保っている。
― 麻布という地にこだわる理由 ―
「堀井の初代が主君に勧められて店を始めた地です。価値ある商品を正当な価格で本物志向の麻布のお客様に訴求していきたい。蕎麦を含む和食全体の価値を高めることが我々の使命です」
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