
~地元・滋賀を愛し続ける自分なりの仕事の流儀がある~
母の病気をきっかけに音楽フェスを立ち上げ
西川:最初は「手足が動かしづらい」と言っていたので、「運動するしかないよね。ジムに行ったら」なんて楽観的なことを言ってたんですよ。でも、どうもそういう話ではない。母が転んで怪我をしたので、MRIやCTの検査をしたところ、脳の髄膜腫が見つかって。すぐに手術をしたんですが、症状がなかなか改善されなくて。
金丸:それは心配になりますね。
西川:パーキンソン病を疑ったんですが、薬が全然効かない。それでいろいろ検査した結果、進行性の多系統萎縮症だとわかったんです。脳のホルモンを分泌するところがエラーを起こして、どんどん動きが緩慢になり、最後は呼吸もままなくなるという、国指定の難病でした。
金丸:そうですか、それはショックでしたね……。
西川:母のために地元に帰る機会を増やしたい、大手を振って帰るために仕事を作るしかないと思いましたね。ちょうど滋賀ふるさと観光大使に任命されたこともあり、音楽を通じて地元に恩返しがしたいと考えていたので、2009年にイナズマロック フェスを立ち上げました。
金丸:お母様がきっかけだったんですね。
西川:ただ、母はフェスの10周年を待たずに亡くなってしまいました。
金丸:そうだったんですか……。
西川:正直に言うと、本来は母の面倒を見るために立ち上げたイベントだったので、10年続けたらもう役割を終えただろうと、辞めるつもりだったんです。だけど、地元の方から「来年も頑張ってほしい」と言っていただき、今も続けています。こんないい歳して恥ずかしいですけど、男ってだいたいマザコンじゃないですか。
金丸:少なくとも、母親は息子にはマザコンであってほしいと思っているでしょうね。
西川:やっぱり母親に代わるものってないんです。だから、母に対して自分ができることはやった、やり切ったと思う反面、もっと会いたかったし、もっとできることがあったかもと思うことがあります。フェスを続けているのは、そういう気持ちもあるんです。
金丸:なるほど。フェスを15年以上続けてきて、何か変化を感じることはありますか?
西川:年々規模が大きくなり、県を代表するイベントになりました。最初はゼロだった協賛企業も、今ではブースを出すスペースに悩むくらい。立ち上げたのは僕ですが、もはや個人のイベントではなく、地元の皆さんと一緒に取り組んでいるという感覚です。
金丸:地元とがっちり組んで、地域に愛されるイベントに育てたんですね。
西川:母を亡くしましたが、父は父でだいぶ高齢になりましたし、そんな僕自身の事情もあるので、地元で父母と同世代くらいの方たちを見ていると、ちょっとでも助けになりたいと思いますね。
地元の人たちの困りごとを商品やイベントに昇華
金丸:そういえば、「西川さんを県知事に」という声が一部で出ていますよね。来年は知事選があるそうですが、出馬しますか?
西川:いやいや、しないです(笑)。
金丸:そうですか(笑)。しかし、西川さんのようにアーティストでこんなふうに名前が挙がるのは、珍しいですよね。
西川:冗談であっても、地元のみなさんにこんなふうに評価してもらえて、光栄なことだと思います。そもそも、僕らの世代だとバンドをやっているだけで、「ルールから外れた人」みたいな扱いをされてきたじゃないですか。
金丸:エレキギターを持っているだけで、「不良だ」って言われましたからね。ところで、滋賀のお土産で、西川さんの顔写真が使われたフィナンシェを見ました。あれも何か関わっていらっしゃるのですか?
西川:あれはコロナ禍で生まれた商品ですね。米の消費が落ち込んだことで、備蓄米も消費されずに廃棄されそうになっていて、地元の米農家さんが困っていたんです。それで自分に何かできないかなと思いまして。僕は普段からグルテンフリーをやっているので、「米粉でお菓子を作りませんか」と声をかけました。
金丸:去年も米騒動が起こりましたが、備蓄米であっても、味も安全上も問題ないですからね。
西川:日本の管理技術は高いですから。米つながりでもうひとつ。昨年から「SHIGA KOMECON」というイベントを始めました。JAに4〜5トンぐらいお米を用意してもらって、お米は食べ放題。協賛でご飯のおともをたくさん集めて、そっちはチケット制という。
金丸:めちゃくちゃ面白そうじゃないですか。
西川:僕みたいに体を作っている人間からすると、麺よりもお米を食べる方が圧倒的に多い。お米のおいしさや栄養価をエンタメとして味わってもらいたい、というイベントです。
金丸:なるほど。体づくりはどんなきっかけで始めたんですか?
西川:始めたのは20年くらい前、30代になってからです。実はライブ終わりに何度も脱水症状を起こしていたんですよ。一番ひどかったのは、打ち上げで鍋を食べに行ったとき。「お鍋入ります」とお店の方に言われて、体をよじった瞬間、全身がつって動けなくなっちゃって。スタッフに担がれてホテルに戻りました(笑)。
金丸:鍋に手をつけることもできずに(笑)。
西川:いろいろな人に相談したら、「体が細いから、水分やミネラルを体のなかにとどめられなくて、汗で全部出てしまうんだ」と。それを解決するには、太るか、筋肉をつけるかしかない。
金丸:さすがに、太るという選択肢はないですね。
西川:今でこそ、パーソナルジムも一般化して多様化していますが、20年前だと、東京でもなかなか見つけられなくて大変でしたね。
金丸:脱水症がきっかけとは意外でした。確か、大会で優勝されましたよね。
西川:大会に出たのもたまたまなんです。コロナ禍でエンタメやスポーツイベントが自粛になりましたが、フェスは規模を縮小しながらなんとか続けていました。地元に帰る機会も多くなり、ちょうど個人でされているパーソナルジムを見つけて、飛び込みで使わせてもらっていたんです。そしたら、そこのトレーナーさんから「噂には聞いていましたが、そんなにトレーニングをやられてるんだったら、大会に出たらいいのに」って言われて。
金丸:また誘われたのがきっかけになったんですね(笑)。