
~地元・滋賀を愛し続ける自分なりの仕事の流儀がある~
大好きな祖父の死が、音楽と出合うきっかけに
金丸:早速ですが、滋賀のどちらのお生まれですか?
西川:生まれは琵琶湖の東岸にある彦根市です。僕がまだ小さい頃、祖父の転勤に僕たち一家もついて行って、少し南の野洲市に移りました。
金丸:小さいときから活発だったんですか?
西川:いや、全然です。両親が共働きだったので、放課後は祖父母の家で過ごしていました。小学生って、学校から帰ったら「何分後に集合ね」って、家にランドセルを置いて遊びに出かけるのが定番じゃないですか。だけど、僕の家と祖父母の家はちょっと離れていて。
金丸:放課後に遊びづらい環境だった?
西川:はい。だから学区の友達ができなくて。逆に10代後半や20代前半の母方の親戚と遊んだり、かわいがってもらいましたね。おかげで、大人との接し方は分かるんだけど、同世代との接し方や遊び方が分からなくて、どんどん内向的になっちゃって。
金丸:今の西川さんのイメージとは違いますね。中学でハンドボールをやる前は、どんなスポーツをされていたんですか?
西川:祖父が警察官で、剣道の有段者だったんです。だから僕も剣道を始めました。剣道自体が好きというより、祖父に稽古をつけてもらったり、褒めてもらったりしたくて。
金丸:おじいちゃん子だったんですね。
西川:そうですね。僕らが子どもの頃って、土曜日も学校が半日あったじゃないですか。終わったらダッシュで家に帰って、じいちゃんちに自転車を飛ばして、週末を一緒に過ごすのが楽しみでした。ところが、小学校高学年のときに祖父がガンで亡くなって。
金丸:それは悲しかったでしょう。大好きなおじいちゃんに褒められたくて、剣道もやっていたのに。
西川:そうなんですよ。何もすることがなくて、週末の時間が丸っと空いちゃって。だから何となくラジオを聴き始めたんです。夕方にNHKを聴いていたら、ラジオ局が時間を持て余しているのか、映画のサウンドトラックとかをずっと流してて。
金丸:ああ、ありましたね。曲順とアーティスト名を言ったあとは「それではお聴きください」と、アナログのLPが流れる。
西川:20分くらい経ってA面が終わったら、今度はB面の紹介があって、また曲が流れる。親父のカセットデッキで録音すると、1時間くらいのサントラが出来上がるんです。
金丸:余計なおしゃべりもないし、曲を聞くだけならちょうどいいですよね。
西川:それが音楽に興味を持ったきっかけで、洋楽のサントラとか、ビルボードのトップ40を聴くようになりました。ちょうどロンドンではニューウェーブ、アメリカ西海岸ではハードロックが流行り始めて、僕は多感な時期だったので、もろに影響を受けちゃって。
金丸:その結果、バンドを始めたわけですね。
西川:おっしゃるとおりです。中学になって同級生とバンドを組みました。
丸刈りの中学生時代も頭の中では金髪バンドマン
金丸:その頃に影響を受けたのは、どんなバンドですか?
西川:ニューウェーブだと、カジャグーグー、G.I.オレンジ、デュラン・デュラン、ハードロックはヴァン・ヘイレン、ラット、モトリー・クルー。男だけど、長髪で派手な衣装を着て化粧して。そんなのばかり見ていたから、「バンド=そういう格好」だと信じて疑いませんでした。
金丸:ということは、「そういう格好」でやっていたんですか?
西川:それは無理でしたね(笑)。地元の学校は、男はみんな丸刈り、女の子はおかっぱという世界でしたから。だけど頭の中では、金髪ロングヘアの自分をイメージしながら歌っていました。思い出すと懐かしいですね。
金丸:我々の世代でも中学くらいからバンドをやるのが流行っていました。私も大学時代にバンドを始めて、ベースを弾いていましたし。
西川:やっぱりバンドをやるとなると、ドラムがあるかどうかが問題になるじゃないですか。サラリーマン家庭だと厳しいけど、商売をやってる家だとドラムを持っている子がいて。
金丸:そうそう。そういう家にはドラムがある(笑)。
西川:それって「バンドあるある」ですよね(笑)。
金丸:西川さんは最初からボーカルだったんですか?
西川:いや、僕は遊びの延長だったので、はじめは全然やる気がなかったんですよ。仲間内に2〜3個バンドができて、みんなのところにフラフラと行って、何もせずに過ごす。そしたら、みんなが「おまえ、ずっといるけど、なんかやることあるの?」って。
金丸:そりゃあ言われるでしょうね(笑)。
西川:「何もないよ。遊んでるだけだから」って答えたら、「じゃあ、歌ってくれ」と。そこからです。その頃って、ギターとかドラムが花形で、ボーカルはおまけみたいなもの。やりたがる人がいないところに、暇していた僕がたまたま入った。
金丸:面白いですね。ハンドボールを始めたのは隣の家の先輩に誘われ、ボーカルは「暇ならやってくれ」と。
西川:歌うだけなら、楽器を買う必要もないし、タダでできるからいいかなって。でも、楽譜も歌詞カードもないから、誰かがダビングしたカセットを家で聞いて、聞こえるままに全部カタカナで書き起こしてましたよ。
金丸:私もまったく同じ経験があります(笑)。
西川:何を言っているかわからないけど、“I wanna”と聞いて「アワナ」みたいな(笑)。
金丸:ほんとに(笑)。私たちはFENラジオ(在日米軍向けの英語放送)を聞いて、歌詞や楽譜を起こしていましたね。あとで本物の英語の歌詞カードと、カタカナで適当に歌っていたものを見比べると、全然違っていて笑っちゃいました。だけど、音的には聞き取ったまま歌った方が、歌詞を見ながら歌うよりも近くて。
西川:そうなんですよ。美空ひばりさんも、すごく流暢に海外のジャズを歌われていますが、英語は全然しゃべれなかったそうですから。
金丸:耳が素晴らしかったから、それができたんでしょうね。