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30歳になりまして Vol.12

半年記念日に、彼と一泊旅行。しかし、幸せな雰囲気が一変した“プレゼント”とは?

蒼人は箸を止め、少し驚いたように眉を動かした。

「ああ…見えちゃったよね。実は昨日、菜穂にネックレスを渡そうと思ってたんだ。記念日だったし。でも、怒ってる菜穂にうまく渡せなくて」

蒼人は、窓の向こうにひろがる、よく晴れた箱根の空を見上げる。

「…僕なりに、ちゃんと考えてたんだよ」

声が少し震えていた。

「結婚は今すぐにはやっぱりできない。でも、だからこそ今まで以上にちゃんと向き合って、少しでも早く決められるようにするからって伝えたかった。もう少し待ってくれる?って伝えたかったんだ。アクセサリーとともに」

「え…」

「でも…いきなり怒られて、どうしていいか分からなくなった」

― フラレたと思ったのは、私の早とちりだったの?

蒼人は俯いて、続ける。

「正直…菜穂に“私たちはもう終わる”って言われて、びっくりしちゃった」

「うん…」

「あのさ。僕は、菜穂の面倒見がいいところがすごく好き。とくに仕事にまっすぐで、周囲からも信頼されていてかっこいいところが好き。いつもハツラツとしてて、頼れて。菜穂といると元気が出る」

「…ありがとう」

「今までは、そう思ってた。でも、結婚の話になったときの菜穂は、独りよがりでなんか苦手だ。人の話に耳を傾けるのが上手な菜穂が、どこかに行ってしまったみたいで」

朝日のおかげか、私は昨夜よりも冷静に物事を考えられる。蒼人のうんざりした気持ちが、なんだかよくわかる気がした。


「そうね…独りよがりになってた自覚はある。結婚っていう言葉にとらわれて、蒼人の気持ちをちゃんと見てなかった」

「…うん。僕から見ると菜穂は、僕じゃなくてもいいからとにかく結婚相手がほしいって思っているように感じる。それが僕はすごく嫌だ」

蒼人は、窓の外から私のほうに視線を戻し、こう言った。

「だから…きっと、もう僕たち、一緒にいないほうがいい」

私は、呼吸が浅くなるのを感じる。

「…でも待って、蒼人」

「ん?」

「誰でもいいなんて思ってない。だからこそ…蒼人が結婚はできないって言うから、悲しくなったの。さみしくなったの」

言いながら、私はわかっていた。こんな言葉は何のフォローにもならない。

その証拠に、蒼人はテーブルの味噌汁を見つめたまま、何も言わなかった。


▶前回:付き合って半年でやや不穏な空気に…。箱根へのお泊まり旅行で修復しようとしたら

▶1話目はこちら:「時短で働く女性が正直羨ましい…」独身バリキャリ女のモヤモヤ

▶NEXT:7月30日 水曜更新予定
自分のふるまいが理由で、蒼人と破局…。菜穂の人生はどこに向かっていく?

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この記事へのコメント

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No Name
箱根にスーツケースで行ったんだ? 電車だから? にしてもこれ見よがしにサイドポケットからはみ出したカルティエのショッパー? 怪しいなぁ中身は空か....
最初から「結婚も前向きに考えるから、もう少し待ってくれますか?」と言えばいいものを😂
2025/07/23 05:2225Comment Icon2
はい破局!
彼の言い方も悪い。この二人は結局お互いが自分の事しか考えてないからこうやってすれ違う。
2025/07/23 05:1322Comment Icon2
No Name
ほら見た事か社内に公表した直後に破局。 会社で気まずいったら。あの噂大好き会社の人達だから「何で別れちゃったんですか?」とかわざと聞いてくるよね。そしてお化粧室では「あの人の結婚圧に耐えられなくて澤石さんからフったらしいよ」「うわーきゃー」「やっぱりね、じゃ私立候補しちゃおかな♡」 的な会話を聞いて悔しがる菜穂。 どうでもいい。
2025/07/23 05:3621
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30歳になりまして

「30歳」

その数字は、女性の心に妙に重くのしかかる。

「年齢なんてただの数字」と本人は思っていても、世間がそれを許してくれない。

職場では、つい最近まで若手だったはずなのに、いつのまにか中堅どころになっている。

マッチングアプリだって自動的に30歳になった途端に「いいね」が減った気がする。

気持ちは追いついていないのに、30歳という年齢の重みがが急にのしかかる。

大手IT企業のマーケティング部で、課長職を担う桜庭菜穂は、30歳になって迷いが生じ始めた…。

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